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「横雲」のやまとうた


by asitanokumo
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王朝風和歌100首

王朝風和歌100


冬に入る

もみぢ葉を散らす時雨の音寂しふりゆく身にも冬のきにける 横雲  1

水鳥は冬に入りたる池のおもうきねをぞなく恋をするかな 横雲   2

-11-8


片時雨

もみぢ葉に降りみ降らずみ片時雨ぬるるおもひや袖の染まりぬ 横雲  3

ふりそめて袖に時雨るる神無月むかしをこふる色やまされる 横雲  4

-11-10


姫椿

薄紅のいつ咲きたるや姫椿月の明かりに濡れて染まりぬ 横雲 5

あふ人のなきまま時のうつろふもみそかに咲ける姫椿かな 横雲 6

-11-12


思ひ草

紫の露に濡れたる思ひ草思ひの色のいよよ濃くせる 横雲 7

人知れずしぼる涙に思ひ草思ひの色に染めらるる秋 横雲 8

-11-14


小春の空

風の無き小春日和の心地よく深山に敷ける錦踏みゆく 横雲 9

行く末の知れぬ定めをいとほしむ小春の空に雲は流るる 横雲 10

-11-16


冬の半月

更け行けば光も色も寂しさもひとしほさゆる冬の半月 横雲 11

見あぐれば冬の半月身にしみてはかなき夢のえやは忘るる 横雲 12

-11-18


小夜時雨

しほたるるひとり旅寝の小夜時雨薄き衣にうき世歎きつ 横雲  13

音に聞く老のね覚の小夜時雨夢の跡なる袖や濡れたる 横雲 14

-11-20


夫婦の日

年ふりてめをとを祝ふ日の朝は老ひゆく身をばかこつ朝なり 横雲 15

小雪舞ひ冬仕度する夫婦岩寄する白波千世の数かも 横雲 16

-11-22


冬紅葉

いかにせむ静けき雨に冬紅葉忍ぶにあまる色濡らしつる 横雲 17

色染めて冬のもみじ葉濡らしゆく時雨にまさるわが涙かな 横雲 18

-11-24

枯葉

降り積める枯葉踏む音哀しみて寝待の月の影のこほれり 横雲 19

冬来ぬと枯葉を飛ばす風の音のうらみてもなほ身にしむるかな 横雲 20

-11-26


落葉道

うづもるる落葉の道を踏み行くやうつつか夢か心迷へる 横雲 21

木枯しの風の音聴き落葉掃く恋しきことの数かぞへつつ 横雲 22

-11-28


冬の日

老ゆけば恋つつ暮るる冬の日の温き光の手に零れ満つ 横雲 23

暮れやすき日のひねもすをかこちつつあかぬ心はひと待ちかぬる 横雲 24

-11-30


葉の露

木の下の露の氷れるあさまだき物思ふ人の影やかそけし 横雲 25

露置ける森の下葉に寂しさの面影残し人の去りゆく 横雲 26

-12-2


裸木

木の葉なき枝にむなしく流れゆく雲に紛へるわが想ひかな 横雲 27

裸木となれる大樹の影の濃くこの通ひ路に年のふりゆく 横雲 28

-12-4


冬の朝

さらでだにうきの身にしむ冬の朝垣穂の君の影のかなしき 横雲 29

冬の朝なほ色増せる葉に透ける光に定なき世を愁ふ 横雲 30

-12-6


木枯し

音高く落葉を舞はす木枯しのむせぶ思ひや色のつれなし 横雲 31

手枕にしるく聞こゆや音高く何ぞかなしも夜半の木枯し 横雲 32

-12-8


冬三日月

夢なれや冬の三日月残る朝思ひたゆとも影の恋しき 横雲 33

冬雲の切れ間にほのか三日月の反りて寒さの冴え返りたり 横雲 34

-12-10


寒風

凍て風の音聴く夜半や寝覚めして思ひ定めぬ身のうかりける 横雲 35

風寒みこほれる想ひ掛けとどめ細かる月にいのち頼めり 横雲 36

-12-12



鐘氷る

ほの聞こゆ鐘冴ゆる朝恃めども老のね覚めの憂き身かこてり 横雲 37

ひとりぬる枕に朝の鐘氷るうき世の夢の見果てぬままに 横雲 38

-12-14


師走の月

影さむきしはすの月の細かるに遥か雲居の君恃むかな 横雲 39

色寒み残りすくなき日を数へ細かる月に夢を恃みぬ 横雲 40

-12-16


ゆり鴎

都鳥ひとひ川面を眺めつつうきを知らでや年のふりゆく 横雲 41

夢ぬちに影のかそけくゆり鴎いかでかひなきあふ瀬にうきぬ 横雲 42

-12-18


虎落笛(もがりぶえ)

夕暮のまろき月影虎落笛残る色なき梢に冴えて 横雲 43

きこゆるは身にしみわたる虎落笛悶えこがるる冬のいたまし 横雲 44

-12-20


冬鳥

短日の淵瀬つたひて行く波に暮れゆく年の冬鳥の影 横雲 45 
嘴を胸に埋めし寒禽のふかき思ひを誰ぞ知るらむ 横雲 46

-12-22


冬薔薇

ほんのりと淡き色なり冬薔薇残る命を光にゆだぬ 横雲 47

萎れたる薔薇の実冬の空にありあだなる物といふべかりけり 横雲 48

-12-24


霜晴の眩しき空に風のありちぎりの袖に木の葉の散りて 横雲 49

散れる葉の色そめかへす今朝の霜わか言のはの色やかはらぬ 横雲 50

-12-26


薄氷(うすらひ)

池水の泡をやどせる薄氷のあやふき想ひやがて消ゆるも 横雲 51

薄氷をつつきて知るや今朝の冷え人の心のたのみがたきも 横雲 52

-12-28


小晦日(こつごもり)

来る春を待つも嬉しき小晦日こころ交はすや老い重ねつも 横雲 53

眺めつつやすらふ程に小晦日昔を今に思ひなしつつ 横雲 54

-12-30



年立ちかえる

あら玉の年たちかへる朝の空思ふ心のかぎりなきかな 横雲 55

病む翳を隠す如くもひそやかに白梅咲けるあらたまの年 横雲 56

-1-2


初夢

日ノ本の落つるを知るもとどめ兼ねひたすら落つや初夢の憂き 横雲 57

初夢の覚めておぼろにはかなくもうつつのやみに惑ひぬるかな 横雲 58

-1-4


寒の入り

あからひく霜白き朝寒に入るおもふものから我身むなしき 横雲 59

うすらひの色確かむる寒の入り結ぶ思ひのとくるをうれふ 横雲 60

-1-6


松明け

ふればこそ恋しかりけれうき雲の峰にわかるる松明けの空 横雲 61

豊御酒のゑひ醒めてこそ松過ぎの色香の見えてうれしかりけれ 横雲 62

-1-8


冬三日月

山の端に鋭く冴えて光りつつ心にぞ入る冬の三日月 横雲 63

面影を冬三日月に恃めども巡りあふ身の細きや哀し 横雲 64

-1-10


寒烏

風渡る梢の孤影寒烏翼垂らして一声啼きぬ 横雲 65

大ぶりの冬の烏の影ひとつ梢にありて日の暮るるかな 横雲 66

-1-12


寒の水

掌に掬くへば痛き寒の水世の行く末の闇に迷ひて 横雲 67

腑に沁みて寒九の水と知られける老いらくの身に嘆き重ぬも 横雲 68

-1-14


春を待つ

老いの身のね覚に春を待つここちして月影はあり明の空 横雲 69
年ごとのたより途切れて梅蕾色のかたきや春遠くして 横雲 70

-1-16


冬日向

冬の日を肩に受けつつかれがれの道に佇み哀しきを知る 横雲 71

一匹の猫眠りゐる冬日向身をうきものとかこつべらなり 横雲 72

-1-18


冬の夜

冬の夜の光さやかに零れ敷く何恨みてや泪の散れる 横雲 73

春恋ふる心を知るや冬の夜の梢にしるく月冴えわたる 横雲 74

-1-20


実万両

隠栖のひそかに赤き実万両ひとりぬるよの身のかひもなく 横雲 75

数ならぬ身の嘆きかな万両の残りたる実や涙の赤し 横雲 76

-1-22


春いまだ

水鳥のうきねをなくとしるらめや春の遠きを澄む空に見て 横雲 77

唇に風の冷たく春いまだ梢に椋の啼く声もなく 横雲 78

-1-24


冬銀河

冬銀河低き山並みしたがへて澄める光のいよよ増したり 横雲 79

風寒み祈りて仰ぐ冬銀河雲ゐに花のいつや咲かまし 横雲 80

-1-26


唐梅(からうめ)

唐梅に春のきぬるや咲きにけるやがて暮るるも待ち人は来ず 横雲 81

臘梅の咲くや日溜まり人去りて偲ぶ思ひの色に濡れける 横雲 82

-1-28


狐火

老いゆくや青き狐火並びたる闇に惑ひし夢覚めずして 横雲 83

狐火のしのび逢ふ夜の思ひかな消えたるあとに影のかひなく 横雲 84

-1-30


探梅行

年ごとの梅の香りを探りゆく旅寝の夢に逢ふこともがな 横雲 85

梅探る夢路をかけて匂ふ風むすぶともなく枕に消ゆる 横雲 86

-2-1


節分

老いゆけば追儺の声にしはぶきぬ行く方のなき鬼神のごとく 横雲 87 
しらぎぬに風やはらかき節分会待ちてし春は巫女の手にあり 横雲 88

-2-3



野火

堤焼く煙棚引く春の野はながなをたのみ下もえわたる 横雲 89

野火消えし野を佇みて夕暮るる忍ぶ思ひの色を残して 横雲 90

-2-5


春生りて

薄紅にほころぶ蕾春生りてことばの花のいづち咲くらむ 横雲 91

しるらめや待つとしもなく老い楽の春を重ぬる下萌えの色 横雲 92

-2-7


水の春

生まれてはたゆたふおもひ水の春角組む荻に光のどけし 横雲 93

春の水ながるる音の細かるも色やはらかに草の萌えいづ 横雲 94

-2-9


淡雪

ふるほどに木の芽につもる淡雪のこころなりせばうちとくるかな 横雲 95

逢えぬままふりゆく春の淡雪につもる思ひを忘やはする 横雲 96

-2-11


春浅し

袖濡らす雪には春の匂ひして世にふる老の寝覚哀しも 横雲 97

春浅き空よりおつる淡雪の色にまがへる匂ひかそけし 横雲 98

-2-13


風船

風無きに紙風船のいぶかしく揺るるともなく手よりこぼれし 横雲   99

色淡く空にとけゆく風船のあはれとみえて春を恨みぬ 横雲     100


その時々の季語を題にして王朝風和歌100首を詠もうと始めたのが、昨年118日。詠んでるうちにテーマを見失ってしまったようだが、とりあえず「100首」になったので終了とする。100日など瞬く間に過ぎるこの頃である。

-2-15




# by asitanokumo | 2019-02-15 05:55 | 季節の歌

題詠2005

題詠2005

2005-参加表明(八慧)
2004年のお題が詠み終えたので、2005年に挑む。
八慧の名で現代短歌風を試みたいと思うが、どうなるやら、・・・。

2005-001:声(八慧)
かげろうを摘まべば薄い声の色総身に沁みて閨の灯を消す
-9-1

つぼみ
2005-002:色(八慧)
秋薔薇のつぼんだ色が濃くなって冷たい雨が明日を濡らす
2005-003:つぼみ(八慧)
陽に染まり淡く色づく秋つぼみ咲く花数をそぞろに拾う
2005-004:淡(八慧)
濃く淡く交わり重ね変容の色香に今朝もせつなくなって
-9-3

異層を探る
2005-005:サラダ(八慧)
色鳥の啼いてはばたく朝の身にサラダのような高原の風
2005-006:時(八慧)
穢れつつ共に滅びる時来たる相対死になれない身にも
2005-007:発見(八慧)
埋もれた断章胸に発見し過ぎさる時の異層を探る
-9-5

一人旅
2005-008:鞄(八慧)
一人旅鞄の奥に秘めている惑いの熱は解き放てずに
2005-009:眠(八慧)
山深い村は眠りぬおぼろ夜に蠢くものを不問に付して
2005-010:線路(八慧)
山峡を縫って線路はしなやかにあなたの町をかすめて過ぎる
-9-7

秋の夜
2005-011:都(八慧)
ニードルが貫く水がきらめいて都合の悪い秋を見破る
2005-012:メガホン(八慧)
対岸の火事を知らせるメガホンも役立たないまま透き通る秋
2005-013:焦(八慧)
焦がれ死に出来ないでいて秋の夜のずれたままなるフォーカスポイント
-9-9

生の果て
2005-014:主義(八慧)
主義もなく流されてきたわが生が終の敵に糾弾される
2005-015:友(八慧)
晒される友禅模様を打つ時雨旅が冷たく果てて夕暮
2005-016:たそがれ(八慧)
魂を揺るがす風になぶられて芒の原に迫るたそがれ
-9-11

風を嗅ぐ
2005-017:陸(八慧)
浜に出て吹き来る陸の風を嗅ぐ真夏の夜の夢の続きに
2005-018:教室(八慧)
廃校のすっからかんの教室に消されないまま落書残る
2005-019:アラビア(八慧)
なれはわがシェヘラザードと微笑んでアラビア夜話に想いを託す
-9-13

月影
2005-020:楽(八慧)
待つほどに雲居流れる秋の夜の月影薄い失楽の園
2005-021:うたた寝(八慧)
うたた寝を覚ます浮世の辛い夢冷たく笑う月がぽっかり
2005-022:弓(八慧)
弓張の月傾いてあわあわの木立の影に誘われている
-9-15

秋の風
2005-023:うさぎ(八慧)
耳たてる月のうさぎが呼んでいる光の中へ団子供える
2005-024:チョコレート(八慧)
森抜ける涼しい風にチョコレート分け合う朝がはためいている
2005-025:泳(八慧)
ゆるやかに波立つ空に泳ぐ影眺めて歩くほろ酔いの宵
-9-17

秋の朝
2005-026:蜘蛛(八慧)
木漏れ日の影を絡めてほの揺れる蜘蛛の囲飾る露の輝き
2005-027:液体(八慧)
液体のように流れる薄明かり陸橋越えてはるか東雲
2005-028:母(八慧)
草を刈る母刀自偲ぶ木暗がり幾つの秋がうつろい過ぎる
-9-19

生酔い
2005-029:ならずもの(八慧)
逢えぬまま過ぎ行く秋は夢ならずもの言う花の色香遠退く
2005-030:橋(八慧)
思川越えてジョー呼ぶ泪橋渡りきれない純情ひとつ
2005-031:盗(八慧)
新走り味見す吾は老厭う命盗人今日も生酔い
-9-21

秋風索漠
2005-032:乾電池(八慧)
古玩具裏側二列乾電池曲立不動秋風索漠
2005-033:魚(八慧)
哀しくて灯をともす秋ともすれば泪一滴秋刀魚は美味い
2005-034:背中(八慧)
始まらぬ恋に終わりはないんだと立ち去る君の肩に秋風
-9-23

夢の夢
2005-035:禁(八慧)
爛熟の木の実を盗む夢の夢逢えない時の禁断症状
2005-036:探偵(八慧)
探偵が切り開く闇おどろしく読まずに閉じるクライマックス
2005-037:汗(八慧)
汗ばんだ肌のぬめりを拭きとって苦しい夢をさますきぬぎぬ
-9-25

淡い色は
2005-038:横浜(八慧)
さりげなく握れば指は冷たくて宿の灯濡れる横浜の秋
2005-039:紫(八慧)
なつかしい淡い色ある姫紫苑夕べの野辺にすこやかに咲く
2005-040:おとうと(八慧)
横にいる仲良いめおとうとましく月の浜辺の宴を抜け出る
-9-27

吟遊詩人
2005-041:迷(八慧)
残された謎めく言葉思い出し宙ぶらりんの心の迷い
2005-042:官僚(八慧)
終焉を迎える時も無位無官僚友頼みの遊びの結末
2005-043:馬(八慧)
馬酔木咲く野辺を彷徨い遥かなるトルバドゥールの歌声を聞く
-9-29

秋雨に濡れて
2005-044:香(八慧)
濡れそぼち黙してふたり京洛の秋の色香を訪ね行く旅
2005-045:パズル(八慧)
二人して解けないパズル放り出し色づく秋に濡れていた旅
2005-046:泥(八慧)
白々と果てたこの世を厭いつつ泥水蹴立て走り込む宿
-10-1

秋の色増す
2005-047:大和(八慧)
大和路に秋深まってつやつやと柿の実熟れて枝はたわわに
2005-048:袖(八慧)
逢う夜半の風引き入れて袖裏の紅葉の色がほの匂い立つ
2005-049:ワイン(八慧)
秋更けて赤ワイン酌む朧夜はアスパラガスに生ハムを巻く
-10-3

月待ちて
2005-050:変(八慧)
一夜花心変わりか秋の宵咲かないままに月待ちかねる
2005-051:泣きぼくろ(八慧)
月を待ち笑う少女の泣きぼくろ待宵草がもうすぐ開く
2005-052:螺旋(八慧)
幹を捲きのぼる螺旋の蔦紅葉夕焼け色を夜に残して
-10-5

ミステリー
2005-053:髪(八慧)
束ね髪するっと放つ夕間暮れ秋の蛍が消えて薄闇
2005-054:靴下(八慧)
闇ほのかあっけらかんと女生徒の黒靴下が脱ぎ棄てられて
2005-055:ラーメン(八慧)
ラーメンの屋台の笛が遠ざかりミステリーめく夜が深まる
-10-7

高原の秋
2005-056:松(八慧)
落葉松の林を過ぎて秋風の音は優しい色に染められ
2005-057:制服(八慧)
制服の少女が走り去った後花野の道に秋が深まる
2005-058:剣(八慧)
鴛鴦の思いの色か剣羽 (つるぎば)が秋の陽受けて水脈輝かす
-10-9

三品それぞれ
2005-059:十字(八慧)
十字切る女の肩に夕陽差し棚引く雲が血の色になる
2005-060:影(八慧)
ゆらゆらと岸の紅葉が枝伸ばす水面に風の影が色づく
2005-061:じゃがいも(八慧)
しゃがいもの和風洋風中華風好みに合す料理三品
-10-11

秋の暮れ
2005-062:風邪(八慧)
風邪心地深まる秋のほつれ毛に言うに言われぬ微熱の悶え
2005-063:鬼(八慧)
挨拶におそれ入谷の鬼子母神びっくり下谷と返される朝
2005-064:科学(八慧)
理科学ぶ教室にある骸骨が白衣を着けて夕日を浴びる
-10-13

街の灯消えて
2005-065:城(八慧)
月残る城址に秋の音さやぎ虚しく枯れるこの世を嘆く
2005-066:消(八慧)
街の灯が消えてかなしく川の音ささやく宿に影うつくしむ
2005-067:スーツ(八慧)
新調の秋のスーツを身にまといスカート丈を少し縮める
-10-15

送別
2005-068:四(八慧)
別れ際泪隠して見つめあう四丁目角の夕日が赤い
2005-069:花束(八慧)
抱くほどの花束渡す別れの日微かに遠く子守歌聞く
2005-070:曲(八慧)
手を振って角を曲がった後ろ影あの日のままに君は手を振る
-10-17

クラス会
2005-071:次元(八慧)
同窓会式次元気に締めくくり再会誓う二年後の喜寿
2005-072:インク(八慧)
思い出のグラスに注ぐ白ワインクラス会から帰った夜に
2005-073:額(八慧)
思い出は刈られないまま額の花枯れて侘しく秋風の中
-10-19

夢の続き
2005-074:麻酔(八慧)
開け胡麻酔って夜中に閉ざされた扉に向かい呟いていた
2005-075:続(八慧)
昨夜見た夢に続きがあったとて思案に余る今日の吉凶
2005-076:リズム(八慧)
菜を刻むリズムに夢がまぐれゆきけだるい朝の眼裏(まなうら)に舞う
-10-21

抱き枕
2005-077:櫛(八慧)
置き去りにされても残るウェットな手櫛で梳いた髪の感触
2005-078:携帯(八慧)
誘われて俳句必携帯びる旅ホテルの裏の灯しがかすむ
2005-079:ぬいぐるみ(八慧)
抱き枕長い大蛇のぬいぐるみくねくねとして足に絡まる
-10-23

秋日和
2005-080:書(八慧)
書きさしのメール消せずに時流れ往還のない空はピーカン
2005-081:洗濯(八慧)
買い換えた優しい声の洗濯機呼ばれるままの洗濯日和
2005-082:罠(八慧)
透き通る青い空には手の込んだ甘い罠など隠せはしない
-10-25

高原
2005-083:キャベツ(八慧)
高原のキャベツ畑を駆け抜けた朝の陽射しは夏の味して
2005-084:林(八慧)
とぼとぼと林を抜けて見かえれば広い裾野は錦衣を纏う
2005-085:胸騒ぎ(八慧)
崩壊の胸騒ぎして目覚めれば落葉松散らす風のいきづき
-10-27

天高し
2005-086:占(八慧)
この秋を独り占めする山頂に吹き上げてくる錦繡の風
2005-087:計画(八慧)
今の世は百年の計画けずに人の育たぬ為政の暗愚
2005-088:食(八慧)
小輩は衣食足りても恥知らず不平鳴らして天に唾する
-10-29

別れたのちに
2005-089:巻(八慧)
別れ際巻き戻してる思い出は出逢った頃の泪と笑顔
2005-090:薔薇(八慧)
立ち去った人の形見か本棚に枯れた白薔薇飾られたまま
2005-091:暖(八慧)
加賀染めの暖簾くぐれば茶屋街の夢幻世界へ登る階段
-10-31

傷の疼き
2005-092:届(八慧)
身を焼いた治りかけてる痒い傷疼いていても手が届かない
2005-093:ナイフ(八慧)
砂浜て拾ったナイフ錆びていて昔の傷が疼いたりする
2005-094:進(八慧)
大荒れの苦海の波にもまれつつ進んだ先に浄土はなくて
-11-2

色ながら散る
2005-095:翼(八慧)
風そよぎ歌の翼に陽のさして色ながら散る君の言の葉
2005-096:留守(八慧)
色づいた言葉がはらり神の留守眠る思いを掌に置く
2005-097:静(八慧)
秋の朝静かに明けて摘まみ取る舌にほのかに甘い椋の実
-11-4

冬近し
2005-098:未来(八慧)
とりあへず楽しい未来夢に見てひと日一日を過ごす幸せ
2005-099:動(八慧)
逢えなくて季節が動き恨み葉の山の装い色を深める
2005-100:マラソン(八慧)
マラソンの完走報す弾む声少年少女に冬の微笑み
-11-6

2005-完走報告(八慧)
2005年のお題をなんとか詠み終えました。
まとめは、「朝の雲」(asitanokum.exblog.jp)の「題詠マラソン2005」に記します。

このあと、王朝風和歌が詠みたくなったので、この「題詠100首」の会場から離れて、100首ほどを詠み進めようかと思っています。これは、FacebookとTwitter「横雲」とブログ「杉篁庵日乗」に発表の予定です。



# by asitanokumo | 2018-11-06 06:16 | 題詠まとめ

題詠マラソン2004

《2004年》
2004年会場(題詠マラソン2004)

2004/参加表明
2004-参加表明(横雲)
2003年のお題に続いて2004年のお題にトライしてみる。
004年の分は、「横雲」の名で詠むので旧仮名文語になりそうだ。
しかし、王朝風ではなく現代風の歌にしてみたいが、まだ、テーマも定められずにいる。やっぱり恋の歌が多くなりそうな気はする。二日で三首位のペースで進めてみたい。

2004-001:空(横雲)
新しきビル建ち上ぐる夏の空雲のはたてにこふる人あり
2004-002:安心(横雲)
安心(あんじん)の一日(ひとひ)だになく過ぎゆけばあはぬ昨日のなほ悔まれて
2004-003:運(横雲)
運不運玩ばれし生ゆゑになだめつつ羅の夏帯解きし
-6-25


2004-004:ぬくもり(横雲)
ぬくもりを残す布団に身を投げて耳に残れる声を聞く夜
2004-005:名前(横雲)
こゑにして君の名前を繰りかへし遠き昔を偲ぶ草吊る
2004-006:土(横雲)
行く末を待つ身の老ゆも厭離穢土まよふ心の暗きに入りぬ
-6-27

甲斐なく老いて
2004-007:数学(横雲)
西鶴の昼夜にわたる大矢数学ぶかひなく老いさらばへし
2004-008:姫(横雲)
安らけく息する姫をかたはらに抱きて眠る夜の静けさよ
2004-009:圏外(横雲)
暴風圏外るもいまだ風止まず身に染むほどに秋は哀しき
-6-29

雨止みて
2004-010:チーズ(横雲)
初めての二人の朝(あした)チーズ切る光まぶしくよろこび満つる
2004-011:犬(横雲)
雨止みて拒む老犬誘ひたり夏草茂る夢の名残りに
2004-012:裸足(横雲)
ルンルンと裸足で歩くシーサイド長スカートの裾たくしあぐ
-7-01

酔はましや
2004-013:彩(横雲)
酔はましやそぞろに歩き二人して彩絵(だみえ)の壁に寄り添へる夕
2004-014:オルゴール(横雲)
手回しの音の欠けたるオルゴール恋の名残りの捨てられぬ歌
2004-015:蜜柑(横雲)
湯の小屋の青き香強き青蜜柑淋しき色に爪立ててみる
-7-03

艶姿
-2004-016:乱(横雲)
乱鴬の声に艶あり啼き交す渓の湯宿に夜明けのひかり
2004-017:免許(横雲)
この恋に未練残すか冷艶な切捨御免許せずにゐて
2004-018:ロビー(横雲)
湯の宿の朝のロビーに待合せ艶な姿にルンルン気分 
-7-05

七夕の空
2004-019:沸(横雲)
沸々と湧きたつ思ひ持て余しひとり見あぐる七夕の空
2004-020:遊(横雲)
花散らし戯れ遊ぶ風になりすさぶ思ひを解き放ちたり
2004-021:胃(横雲)
胸に落ち胃の腑に落ちし言の葉を君が誠と疑はざりき
-7-07

つれなき色
004-022:上野(横雲)
髪濡らす上野の山の青時雨つれなき色に刻を染めゆく
2004-023:望(横雲)
花栗の香に包まるる小望月その暁のちぎりいたみぬ
2004-024:ミニ(横雲)
偽りのフェミニストめくふるまひを君は嫌ひて背に拒みたり
-7-09

悦び
2004-025:怪談(横雲)
たそがれに怪談を聞く女生徒の眼(まなこ)に光る悦びの色
2004-026:芝(横雲)
寝ころぶや夏芝蒸れて呼ぶ汗の耳の後ろを這い落ちてゆく
2004-027:天国(横雲)
天国へ行けぬあはれをよそに聞き頼れる力なきをかなしむ
-7-11


夏祭
2004-028:着(横雲)
浴衣着て村の祭りに急ぎつつ川瀬にまじる笛の音聞く
2004-029:太鼓(横雲)
村の灯へ誘ふ祭の遠太鼓湯宿の窓に夕闇迫る
2004-030:捨て台詞(横雲)
捨て台詞吐きて立ち去る男には祭囃子の寂しくきこゆ
-7-13

どくだみ
2004-031:肌(横雲)
肌脱ぎの肩の紫蓮に蝶舞はせ思ひのままに君は旅立つ
2004-032:薬(横雲)
十薬の花群れ盛る島の道罪まぬがるや十字の白き
2004-033:半(横雲)
初夏の白き肌見せ半化粧半信半疑裏切りの時 
-7-15


2004-034:ゴンドラ(横雲)
空中へゆらりゴンドラすべり出で眼下に青き山河広がる
2004-035:二重(横雲)
二重三重やがて八重咲き八重に散り夏の夜空に思ひを残す
2004-036:流(横雲)
君見ずや願ひ一すじ流れ星たちまち消えて空の清艶
-7-17

盛りを過ぎて
2004-037:愛嬌(横雲)
愛嬌の振り撒かるるも夏空に盛り過ぎたる花萎れける
2004-038:連(横雲)
連れ添ひて辿れる道にある轍途切るる時の闇恐れけり
2004-039:モザイク(横雲)
本心をぼかすモザイク消せぬまま便り間遠になりしこのごろ
-7-19

昔日
2004-040:ねずみ(横雲)
次々とねずみ花火の音爆ぜてやがて静謐満天の星
2004-041:血(横雲)
夜の灯にたぎる血潮を厭ひつつ彷徨ひし日の懐かしきかな
2004-042:映画(横雲)
君と見し古き映画に若き日を偲ぶ宵なり我は老いたり
-7-21

風の象(かたち)
2004-043:濃(横雲)
みどり濃き七月の山越え来たる風の象(かたち)を草原に見る
2004-044:ダンス(横雲)
しなつくる鶴のダンスに倣ひてや笑顔の君はスカート広ぐ
2004-045:家元(横雲)
ひつそりと夜のにほひの一軒家元(もと)も子もなき恋の終焉
-7-23

緑陰に
2004-046:練(横雲)
糸持ちて練羊羹を切る指の指輪に宿る光りの赤し
2004-047:機械(横雲)
動かざる機械の透ける古時計何の形見を留め置きける
2004-048:熱(横雲)
火の山の匂ひ濃き日の緑陰に熱纏ひたる身を憩ひけり
-7-25

よろよろと老ゆ
2004-049:潮騒(横雲)
人待ちて遠く潮騒聞く宿の湯殿の窓は夏のおぼろ夜
2004-050:おんな(横雲)
溺れたる酒とおんなを断ちしかど地に足つかずよろよろと老ゆ
2004-051:痛(横雲)
向きあふて触れし痛みの忘られずその面影にねこそなきそふ
-7-27

あらたなる嘘
2004-052:部屋(横雲)
うつくしき蛍火ひとつあらたなる嘘育ちゆく部屋に灯れる
2004-053:墨(横雲)
細く濃く眉墨引ける指白し逢魔が時に遠きいかづち
2004-054:リスク(横雲)
逢ふほどにリスクの増せど短夜のいのちなりけり人ぞ恋しき
-7-29

青春の形見
2004-055:日記(横雲)
半世紀前の古びし青春の形見とぞなる交換日記
2004-056:磨(横雲)
よるよるは須磨の浦波恨みつつ思ふ方より吹く風待てり
2004-057:表情(横雲)
別れしな表情硬く紅引きて声こらへつつ君は泪す
-7-31


うらみてもなほ
2004-058:八(横雲)
八朔の節句たのみにできぬまま昨日の嘘を猶おしむかな
2004-059:矛盾(横雲)
いくつもの矛盾抱へて過ごす世をうらみても猶たのみにぞせむ
2004-060:とかげ(横雲)
尾の切れし青とかげ這ふ石の上真昼の影の濃きを走らす
-8-02

蝉のしぐるる
2004-061:高台(横雲)
秋ちかき蝉のしぐるる高台寺うすき衣のねにぬるるかな
2004-062:胸元(横雲)
涼風を待つ胸元に滑る汗山下陰に蝉のしぐれて
2004-063:雷(横雲)
湯にひたり聞く遠雷のひとしきりやがて夕焼け蝉のしぐるる
-8-04

時の形見
2004-064:イニシャル(横雲)
ハンカチの君のイニシャルの色褪すを過ぎ来し時の形見とぞする
2004-065:水色(横雲)
水色のロングスカート靡かせて浜辺を走る君が眩しく
2004-066:鋼(横雲)
我になほ鋼のごとく鍛えたる心のあらば寂しさ耐ふも
-8-06

追憶
2004-067:ビデオ(横雲)
旧式のビデオカメラに映り込む手を振る君と散る花びらと
2004-068:傘(横雲)
さしかける傘に桜のちりかかり相寄る影を濡らす追憶
2004-069:奴隷(横雲)
睦びても奴隷のごとく黙しゐる目の恐ろしき女ありけり
-8-08

うたかたの影
2004-070:にせもの(横雲)
たれゆゑにみだれそめたる恋ならむ酔ひてむなしやにせものがたり
2004-071:追(横雲)
次々に追ひくる波に身を任せかかるうきめのうくをうらみぬ
2004-072:海老(横雲)
汐に飛ぶ海老の光か夏の恋波間にやどるうたかたの影
-8-10

初秋
2004-073:廊(横雲)
初秋の画廊に一人佇めばふりぬる身にぞあはれのしらる
2004-074:キリン(横雲)
雲の峰崩れて秋のキリン草村の娘の手に摘まれけり
2004-075:あさがお(横雲)
あさがほの萎れし夕べぬるき風身をつくしてや思ひ侘びぬる
-8-12


旅のかたち
2004-076:降(横雲)
吹き降りを避けて佇む大樹下洗ひしごとく髪とき放ちたり
2004-077:坩堝(横雲)
狂ほしき坩堝に溶けし我が想ひ旅の像(かたち)となるぞ嬉しき
2004-078:洋(横雲)
湯の宿の和洋混じりし料理食み象(かたち)となれる旅を楽しむ
-8-14

手術痕
2004-079:整形(横雲)
手術後の美容整形せし胸に雫となりて汗の流るる
2004-080:縫い目(横雲)
陽に晒す腹部に残る縫ひ目痕消えぬ思ひはいづくに隠る
2004-081:イラク(横雲)
夏の野のイラクサの棘チクチクと古き痛みの肌に浮き出づ
-8-16

夢醒むるも
2004-082:軟(横雲)
軟かき木の芽に見たる春の夢醒むるも枯れし枝をたのみとす
2004-083:皮(横雲)
なにくれと叶はぬ恋の皮算用戯(たはぶ)れ言の文の溜まりぬ
2004-084:抱き枕(横雲)
抱き枕いだけど夢の虚しくて戯れの身は置きどころなし
-8-18

遠き歓声
2004-085:再会(横雲)
再会の駅の北口たぎる身に潜む痛みと朝の賑ひ
2004-086:チョーク(横雲)
色チョーク重ねて描く夏模様空き教室に遠き歓声
2004-087:混沌(横雲)
敷島の混沌の闇深まりて現し世はなほ生き難きかな
-8-20


秋の風
2004-088:句(横雲)
秋草に埋もる句碑に月影の淡き宵なり風の涼しき
2004-089:歩(横雲)
二歩三歩過ぎて気づける野仏に蝶のとまりてはつか傾く
2004-090:木琴(横雲)
秋の風呼ぶ木琴の響きありたなびく雲に何をたのめる
-8-22

夢の痕
2004-091:埋(横雲)
遠き日の胸の埋火かき出だしはかなき夢の痕を痛みぬ
2004-092:家族(横雲)
夜深み四人家族のそれぞれの部屋に孤独の枕のありて
2004-093:列(横雲)
夕焼けの終の光に立ち尽くし列なす蟻の乱れ見詰むる
-8-24


遠き思ひ出
2004-094:遠(横雲)
寄り添ひて窓辺に聞ける遠花火浴衣の君は遠き思ひ出
2004-095:油(横雲)
君の住む街への道は油照り乗り継ぎわろきバスの遅るる
2004-096:類(横雲)
生類を憐れみ食す夏の夜の生臭き息美しく吐く
-8-26

過ぎ来しを
2004-097:曖昧(横雲)
曖昧な答え重ねて過ぎ来しを悔なき我と眠りむさぼる
2004-098:溺(横雲)
濁りなき稚児の瞳に恥ぢ入りてなれに溺るる身を糾すかな
2004-099:絶唱(横雲)
咲き誇る花の絶唱山に充つかの日の春の然は来ざるも
-8-28

百首
2004-100:ネット(横雲)
たが為に歌ひあげしやこの百首言の葉散りて甘きソネット

2004-完走報告(横雲)
「題詠100」の企画は、2003年から始まっていましたが、私がこの企画を知って参加したのは歌を詠み始めて間もなくの2011年からでした。
2018年の100題が詠み終わった後、この4月からは日々のブログ更新がままならないこともあって、未参加の2003年のお題からぼちぼち詠み進めることにしました。
2003年のお題に続いて、2004年のお題100題もなんとか詠み終えました。
これで「題詠」を10年分・1000余首詠んだことになります。
-8-30
# by asitanokumo | 2018-08-30 05:59 | 題詠まとめ

「題詠マラソン2003」《十五年》


以下、フェイスブックに記したものをまとめて転載する。


2003-参加表明(やゑ)

私が「題詠100」の企画に参加したのは2011から、歌を詠み始めて間もなくのころでした。

この企画は2003年から始まっていたと知って、始まりからどれだけ辿れるかわからないものの、この4月(2018)からは日々のブログ更新がままならないこともあって、未参加の2003年のお題からぼちぼち詠み進めてみようかと思います。

季節の花や風物(季語)と取り合わせて淡い想いが詠めればと思っています。

(今年始まった「題詠」の企画で、今年分が詠み終えると、過去の題を詠むことができるようになった。)


「十五年」

2003-001:(やゑ)

言葉なく桜月夜に肩寄せる影絵の中にある十五年

2003-002:(やゑ)

水の輪を重ねて鳥は飛ぴたった花に未練はないのだろうか

2003-003:さよなら(やゑ)

さよならを交わして帰る春の宵逢いたい気持ちを奥に澱ませ


「風ひかる」

2003-004:木曜(やゑ)

晩餐のグラスを交はす振袖に桜が散って聖木曜日

2003-005:(やゑ)

山国の雪解を想い岩陰でひとり聞いてる春の潮の音

2003-006:脱ぐ(やゑ)

春コート脱いで眩しい川風に晒す笑顔が遠くに見える


「蠢く月」

2003-007:ふと(やゑ)

花陰にうふふと笑う顔見せて早くこっちと手を振っている

2003-008:足りる(やゑ)

花散って蠢いている春月が足りない愛を求めつづける

2003-009:休み(やゑ)

嘘ついてずる休みして逢いに行き水田に春の雲を眺める

2003-010:浮く(やゑ)

熱の身が共に過ごした時越えて昔ながらの夢に浮く春


「水鳥の跡」

2003-011:イオン(やゑ)

三越のライオン撫でる少女いてビルの谷間は春の夕焼

2003-012:突破(やゑ)

花屑を突破りゆく水鳥の跡に青空ひとすじの道

2003-013:(やゑ)

春惜しむ心に愛は届かない八重の桜も散ってしまった

2003-014:段ボール(やゑ)

コロコロとやがて石段五十段ボールはポンポン弾んで落ちる


「初夏の月」

2003-015:(やゑ)

機嫌よく目覚めてきみは身を包む若葉の風にいつもの笑顔

2003-016:(やゑ)

月光に疲れを知らず濡れている窓辺に咲いたベゴニアの紅

2003-017:(やゑ)

妻籠みに垣を巡らす八雲立ち包まれていく初夏の月

2003-018:泣く(やゑ)

泣く人に泣くなと言ってすすりあげ何処まで行こう空木咲く夜


「高原」

2003-019:蒟蒻(やゑ)

蒟蒻のさしみを摘まむ縁の夏ビールの泡は零れて消える

2003-020:(やゑ)

いくつかの季節過ぎても害った心の疵はふいに疼いて

2003-021:(やゑ)

高原に向かう列車の窓いっぱいの初夏にこころを浸す

2003-022:(やゑ)

ふたりして素足の裏に夏踏んで駆けていきたい丘に来ている


「浅間の煙」

2003-023:(やゑ)

一編の詩を口ずさみつつ丘登り今朝も眺める浅間の煙

2003-024:きらきら(やゑ)

落葉松の林に雨がきらきらと横に流れて夏が始まる

2003-025:匿う(やゑ)

新緑が匿う君の影を追い雄蝶雌蝶がもつれて消えた

2003-026:(やゑ)

稲妻の光の中に見えた影何を隠すか夏の夜の森


「森の匂い」

2003-027:忘れる(やゑ)

封印し忘れたはずの思い出が時に醸され熟し溢れる

2003-028:三回(やゑ)

おあずけに三回回ってワンという犬に倣った哀しいまなこ

2003-029:(やゑ)

初夏の森の匂いに誘われて髪解き放つ君の輝き

2003-030:(やゑ)

花びらを表に裏に牡丹舞い散るにまかせる投げやりの恋


「愚痴」

2003-031:(やゑ)

街中の猫撫で声に振り向けば思いの外に老けている人

2003-032:(やゑ)

ベランダで星降る夜に二人して昔の歌を口ずさむ日よ

2003-033:中ぐらい(やゑ)

結局は老人の愚痴愛だって中ぐらいほどいいものはない

2003-034:誘惑(やゑ)

誘惑に耐えているのに白い花夏空のもと樹に溢れ咲く


「尾灯」

2003-035:(やゑ)

駅降りて角を曲がれば懐かしい顔が待ってるわけでなくとも

2003-036:遺伝(やゑ)

母娘遺伝している豪快な笑いが響く初夏の庭

2003-037:とんかつ(やゑ)

じいさんが贔屓していたとんかつのお店の席を確かめている

2003-038:明日(やゑ)

終電のテールライトが消えた後置き去りになる明日のない恋


「青葉」

2003-039:贅肉(やゑ)

かの人の優しさなのか贅肉がプルンプルンと波打っている

2003-040:走る(やゑ)

石走る滝の音聴く真昼なり青葉をこえた風が輝く

2003-041:(やゑ)

場違いのようでも墓場におしゃれ服私の時は着て来てください

2003-042:クセ(やゑ)

頰そめる君を想ってほの赤い月に向かってアクセルを踏む



「風の暑さ」

2003-043:(やゑ)

たぎる鍋庭にぶちまけ夏が来た風の暑さに息止める夕

2003-044:殺す(やゑ)

噛み殺す怒りが幾度重なって僕らはボケていくのだろうか

2003-045:がらんどう(やゑ)

子供らが帰った後のがらんどう体育館に潜む陶酔

2003-046:(やゑ)

石南花(シャクナゲ)にやさしい夏が降りかかる訪う人のない高原の朝


「花南瓜」

2003-047:沿う(やゑ)

川に沿う桜並木に青嵐君の帽子は高くに飛んだ

2003-048:(やゑ)

坂の上花の下にて死にたいと歌った人の碑に青嵐

2003-049:嫌い(やゑ)

いまさらに嫌いな人に手を振って別れるように別れてみたい

2003-050:南瓜(やゑ)

にぎやかに南瓜の花が咲いていて素顔の君は故郷訛


「老を哀しむ」

2003-051:(やゑ)

色と酒溺れることも遠くなり敵(かたき)といえぬ老を哀しむ

2003-052:冷蔵庫(やゑ)

冷蔵庫開いて閉じて夕飯は何にするかと不在の悶え

2003-053:サナトリウム(やゑ)

高原のサナトリウムにいるように朝の空気を二人で吸って

2003-054:麦茶(やゑ)

新しく麦茶を淹れて生き死にの瀬戸際を問う息継ぎの昼


「花野の風」

2003-055:置く(やゑ)

甦る花散る下に佇んて胸に手を置く君の仕草が

2003-056:(やゑ)

風に立ち花野の花を摘み取ってもう会えないのかと恨んでる

2003-057:(やゑ)

梅雨空に開いて閉じて蛇の目傘別れる時は傾けている

2003-058:たぶん(やゑ)

ごたぶんに洩れずあなたもさよならはごめんで始まりごめんで終わる


「彷徨う町」

2003-059:(やゑ)

芳草の夢は醒めずも目も声もかすみかすれて影遠ざかる

2003-060:奪う(やゑ)

奪われた心を元に戻せずにあなたの町を彷徨ってみる

2003-061:祈る(やゑ)

目をあげて祈る姿にひざまずく君を眺めて安らいでいる

2003-062:渡世(やゑ)

これまでに渡世の道の分岐点幾つ間違えここに来たのか


「遠い記憶」

2003-063:海女(やゑ)

暁の林は深い霧の海女の影がぼんやり浮かぶ

2003-064:ドーナツ(やゑ)

分かち合う餡ドーナツのひとかけら遠い記憶を呼び覚ましてる

2003-065:(やゑ)

眩しくて遮光カーテン閉じる昼ホテルの窓に遠い山影

2003-066:(やゑ)

老いそめて君の僕(しもべ)になる花見この世のほかの思い出にす


「夢のなごり」

2003-067:化粧(やゑ)

花栗の香につつまれる化粧坂終わった人の夢のなごりに

2003-068:似る(やゑ)

窓口になごむ笑顔が君に似る看護婦がいて通う病院

2003-069:コイン(やゑ)

この恋を占うようにコイントス表が出たら今日会いに行く

2003-070:玄関(やゑ)

玄関に散らばる靴のさまざまを大中小に並べて帰る


「緑の風」

2003-071:待つ(やゑ) 

高原の緑の風に吹かれつつ今年も集うともがらを待つ

2003-072:(やゑ)

居酒屋の席ほぼ埋まり碁がたきの席だけ空いて西日が暑い

2003-073:(やゑ)

資本論語る人無く世の中は金がすべてと金持ちの論

2003-074:キャラメル(やゑ)

よちよちがやがてのりのり片足で踊るゆるキャラメルヘンの郷


「風に染まる」

2003-075:痒い(やゑ)

ウズウズと背中の傷が痒いからシャワーを浴びて緑に染まる

2003-076:てかてか(やゑ)

テカテカの脂の顔を拭いつつ緑の風に包まれている

2003-077:落書き(やゑ)

学級のノートに落書きした日々がドラマみたいに思い出される

2003-078:(やゑ)

夏虫を殺める灯しチカチカとまたたき揺れて夜風にそよぐ


「時経りて」

2003-079:眼薬(やゑ)

時経りて霞む記憶に眼薬をさしてあなたの面影を追う

2003-080:織る(やゑ)

火の山の物語織る幾夜さの窓に凭(もた)れて浸る追憶

2003-081:ノック(やゑ)

てのひらのスパイカメラはミノックス愛の記憶をそっと残した

2003-082:ほろぶ(やゑ)

美し国ほろぶ姿を見る日々が幾年過ぎて我は老いたり


「風の言葉」

2003-083:予言(やゑ)

電話口逢えるその日を予言する風の言葉を耳に重ねる

2003-084:(やゑ)

次々と円舞の相手替えていく君を見ていた海辺のホテル

2003-085:銀杏(やゑ)

あたたかな銀杏落葉に身をしずめふりゆく時を惜しむ夕暮

2003-086:とらんぽりん(やゑ)

幼子をとらんぽりんが跳ね上げてまばゆく揺れるスカートの夢


「歓び」

2003-087:(やゑ)

別れても朝な夕なに願ってた歓び合えるその日はあると

2003-088:(やゑ)

象潟の雨に打たれて咲く合歓に願いを込めてすする岩牡蠣

2003-089:開く(やゑ)

再会の君の心はいつまでも開くことないパンドラの箱

2003-090:ぶつかる(やゑ)

歓びのぶつかる音がくりかえすいとなみしぶき透き通る夜


「刻を待つ」

2003-091:(やゑ)

峰を這う浅間の煙また匂うつま恋う村に一人過ごす夜

2003-092:人形(やゑ)

十六夜の人形めいた縺れ髪さかしまの身にいなずまの影

2003-093:(やゑ)

戯れに恋の名残りの舞扇開いて閉じて過ぎる刻待つ

2003-094:(やゑ)

ふけゆけばさだめの時を待ちながら熟れた無花果ワインで煮込む


「時満ちて」

2003-095:満ちる(やゑ)

咲き満ちる桜の下の思い出は出逢った刻の笑顔の匂い

2003-096:石鹸(やゑ)

思い出は弾けて消える石鹸玉遠くの君へ届けたいのに

2003-097:(やゑ)

来年の干支を数える時満ちて逢える日のくる春を待つ夜

2003-098:(やゑ)

お互いに爛れた傷を舐めあってそっぽを向いて過ごす夜が過ぎ


「やさしい想い」

2003-099:かさかさ(やゑ)

短歌にもヘイト記され鬱な朝そのかさかさの心哀しむ

2003-100:短歌(やゑ)

短歌にはやさしい想い詠みたいと幸せ拾い百首重ねる


2003-完走報告(やゑ)

題詠マラソンの2003年度分を詠み終えた。

ブログ再開に合わせて課題として「やゑ」の名で歌い始めたのが五月初めのことだった。

どうにか口語短歌に慣れてきた感がある。





# by asitanokumo | 2018-06-23 06:10 | 題詠まとめ
「題詠100」は、このところ八慧の名で詠んでいたが、今年は横雲の名で数年前試みたように春に咲く花にからむ恋の歌を文語で詠んで物語が作れればと思って参加した。
春のうちに詠めればと歌いだしたが、意外に早く詠めてしまった。
なんとか恋の物語が浮かび上がってくるように、10首ずつ小見出しをつけて詠んでみた。
ここにはまずそのままの形で転載する。

 「老いらくの恋はてて」(110首)

 「春を待つ」 001--010
2018-001:起(横雲)
日高う寝起きて眺む梅が枝に春のしるしのかそけくぞある

2018-002:覚(横雲)
行く先の打ち覚ゆれどなほ春は朝風寒く遠き面影

2018-003:作(横雲)
作りなす盆梅の花咲きたれどとふひありやと春ぞ久しき

2018-004:いいね(横雲)
春霞たなびく空を待ち居れば「いいね」の声の遠く聞こゆる

2018-005:恩(横雲)
恩讐を越えて逢ひたき人あれば梅の香さそふ里の春風

2018-006:喜(横雲)
再びの春に逢う日を待ち居れば芽吹ける梅の目を喜ばす

2018-007:劣(横雲)
待ち居れば我劣らじとふふみたる梅の蕾の愛しかりけり

2018-008:タイム(横雲)
ひと匙のスープふふめば広がれるタイムのよき香君の思い出

2018-009:営(横雲)
としつきの営み絶えず再びの春の巡りの花の待たるる

2018-010:場合(横雲)
探梅に待合せたるバス乗り場合はする笑みの久方にして


 「行き違ふこころ」011--020
2018-011:黄(横雲)
咲き初むる黄梅の黄を弾く陽や頬にやさしく君を迎ゆる

2018-012:いろは(横雲)
君思ひ草書で記すいろは歌にほへど梅は未だしならむ

2018-013:枝(横雲)
老梅のひと枝にひとつ花つきぬ羞じらふ如く紅滲ませて

2018-014:淵(横雲)
追憶の淵に佇み覗きやる危ふき時を君と重ねき

2018-015:哀(横雲)
思ひきや哀れとどむる春の夜をあひみぬままにひとりぬるとは

2018-016:掘(横雲)
わがとがを根掘り葉掘りに問ひつめて涙の川を君は渡れり

2018-017:ジュニア(横雲)
背を見せて団塊ジュニアの君なればひとり遊びは芸のうちとや

2018-018:違(横雲)
行き違ふこころをふたり持て余しもだして過ごす雪の舞ふ夜

2018-019:究(横雲)
去れるとき我を揶揄して恋の道究むる人と言ひて頬撃つ

2018-020:和歌山(横雲)
しのぶほどなみだに濡れて詠める和歌山より月の出でぬ日なれば


 「懐かしむ日々」021---030
2018-021:貫(横雲)
手に載せて志野の貫入愛しみし君が横顔懐かしむ日々

2018-022:桐(横雲)
桐下駄の音追ひゆけばけざやかに君の面影路地裏に立つ

2018-023:現(横雲)
失へる現(うつつ)の夢の名残とて契れる夜の欠片(かけら)を拾ふ

2018-024:湖(横雲)
鎮まれる火口湖ながめ燃え立ちし時愛しみて老をかなしむ

2018-025:こちら(横雲)
ワンピース着ごこちらくと寄り添ひて初めての夜は静かに過ぎき

2018-026:棄(横雲)
世を棄てし身に下萌のやさしきに苦しき恋をたのみとはせむ

2018-027:鶴(横雲)
葦田鶴のねになく夜半の一声を春の景色の朧に聞けり

2018-028:帰(横雲)
金縷梅(まんさく)のひとむれ咲ける門に居て帰らぬ日々を悔ゆる夕暮

2018-029:井(横雲)
つれなきに井守の黒焼振り掛けむ燃ゆる思ひは我のみにして

2018-030:JR(横雲)
JRに待ち惚けたるバレンタイン私鉄にありし君の懐かし


 「梅咲きそめて」031---040
2018-031:算(横雲)
追ふほどに算を散らして去る雀深き林に梅咲き満つや

2018-032:庵(横雲)
我庵に訪ふ人の無く日のつもり咲かずはつるや再びの春

2018-033:検(横雲)
ふふみたる誠の心検(あらた)むや梅の蕾のなほ固かりき

2018-034:皿(横雲)
梅描く揃ひの皿に春の色浮かぶる宵や君に逢ひたし

2018-035:演(横雲)
好々爺演ずる宵に梅の香のほのにつつみてなが手を握る

2018-036:あきらめ(横雲)
なが心あきらめたるに再びの春を咲かすと卦にいでしかも

2018-037:参(横雲)
敷妙の君が御許に参りしに梅が枝に香のほころびにけり

2018-038:判断(横雲)
終局の違えぬ判断慶びて笑みを交はしぬ桃色遊戯

2018-039:民(横雲)
あこがれの田舎暮らしと古民家の縁に寄り添ふ桃源の里

2018-040:浦(横雲)
忘れ貝思ひありその浦波の寄せしを拾ふふたりなりけり



 「再びの春」041---050 
2018-041:潔(横雲)
潔く訣れし時をなきものに言はず語らず再びの春

2018-042:辺(横雲)
春の灯の甘き香のする枕辺に言はず語らず滂沱の涙

2018-043:権(横雲)
優しさの権化といへる偽りを知りてや君はせつなさに泣く

2018-044:ゴールド(横雲)
袖交ふる恋のゴールドファーミング痛みをひとひ歓喜に換へよ

2018-045:承(横雲)
ぬば玉の言承(ことう)け良きもふるまひは不承々々と見せし閨なり

2018-046:沖(横雲)
沖待ちの船の灯りを眺めつつ臥処(ふしど)にふたり黙(もだ)して居りぬ

2018-047:審(横雲)
つひに来る審(さば)かるる日のせつなきも悔みをけふは悦びとせむ

2018-048:凡(横雲)
去れる日に凡(おほ)に見しくを悔みやり床を新たに心焦がせる

2018-049:順(横雲)
歯目魔羅と順に迎ふる我なれどけふ新たなる夢ぞ見せなむ

2018-050:痴(横雲)
再びの恋に酔ひ痴る春の宵通ひなれたる夢路辿れり



 「咲きそめし桜の下に」051---060
2018-051:適当(横雲)
桜咲く報せのあれば願ひたる悠悠自適当(あ)てこともなし

2018-052:誠(横雲)
春の夜の覚めたる夢は誠かと確かむるべく旅立ちにけり

2018-053:仙(横雲)
半仙戯漕ぎ出す心悦びて二人手を取り春風に舞ふ

2018-054:辛(横雲)
桜咲き千辛万苦乗り越えてつひに逢ひたる二人なりけり

2018-055:綱(横雲)
栲綱(たくづの)の白き鵜の綱手繰る如手繰り寄せらる我にてあらむ

2018-056:ドーナツ(横雲)
ドーナツの穴の先見る昼下がり笑顔の上に桜咲くなり

2018-057:純(横雲)
名を呼べば純情可憐の乙女めき桜の下に君振り返る

2018-058:門(横雲)
門灯のほのかに照らす桜木を仰ぐや空に月朧なり

2018-059:州(横雲)
宇治川の中州を渡る橋に寄り昔語りの恋をするかな

2018-060:土産(横雲)
言訳に旅の土産を選び買ふ君の肩背に花散りかかる


 「逢瀬ののちに」061---070 
2018-061:懇に(横雲)
懇ろになりて互いにつま抱(いだ)き汝(な)を想へりと泣きし夜の明く

2018-062:々(横雲)
虚々たるやけふを限りの命ぞと果てにし夢の跡のむなしく

2018-063:憲(横雲)
護るべき憲を守らずひたすらに不倫を責むる世のさかしさよ

2018-064:果実(横雲)
この因果実(まこと)し顏に尋ぬるは咎とや君は悟りたりしか

2018-065:狩(横雲)
言の葉の胸を射ちしや狩の夜の我待ちわぶる小琴の調べ

2018-066:役(横雲)
狂ほしく小琴奏でる指愛(かな)しそら鳴りの夜の一人二役

2018-067:みんな(横雲)
初旅の後にしるくや顧みんながかんばせの悦びの色

2018-068:漬(横雲)
なびき藻のくるや苦しきみだれ髪梳(けづ)りて漬(ひた)す悦びし夜を

2018-069:霜(横雲)
憂ひつつ寝もせで明くや春の霜影のしろきを恃みながむる

2018-070:宅(横雲)
棹させば舟は揺らぎぬうらみつつまいてこのよは三界火宅


 「夜桜」071---080
2018-071:封(横雲)
巡り来しふたとせ越しの春なれや溢るる想ひ封ぜざれなく

2018-072:レンタル(横雲)
レンタルの着物で遊ぶ京の夜下駄の音にも華やぎありて

2018-073:羅(横雲)
美しく綺羅をまとへる桜狩り祇園をよぎる月朧なり

2018-074:這(横雲)
いだかれて背を這ひわたる汝(な)が指は魔神の翼はばたかすなり

2018-075:辻(横雲)
辻の灯に同じ夢見るここちして桜花ちる祇園をよぎる

2018-076:犯(横雲)
春うらら耳に桜の散りかかる女犯の僧の懺悔聞く如

2018-077:忠(横雲)
暁を憂しと歌へる忠岑に添ひて悦ぶ朝を語らむ

2018-078:多少(横雲)
手すさびの我楽多少し弄びふたりの春の夜や更け行ける

2018-079:悦(横雲)
君が影眺めてひとり悦に入る人妻となる身のいとほしく

2018-080:漁(横雲)
夜桜の並ぶ灯火(ともし)や妖しくも漁火に似て映り揺らげる


 「花筏」081---090
2018-081:潰(横雲)
ながらへば潰(つい)えた夢の出涸らしを生くるがごとく花屑を踏む

2018-082:にわか(横雲)
鴛鴦(おしどり)の静かにわかつ花筏別るる朝に来し方たどる

2018-083:課(横雲)
愛といふ責をを課されし身の内に待つもはかなき春の夜の夢

2018-084:郡(横雲)
散る桜美しからむ汝が郡添ひて寝(ぬ)ればや惜しまざらまし

2018-085:名詞(横雲)
読みとくは古歌の総仮名詞書春障子には鳥影よぎる

2018-086:穀(横雲)
夢の辺の桜の下にくらしつつ穀潰(ごくつぶ)してふ我は詠へる

2018-087:湾(横雲)
弓なりに湾をよぎれる船の灯の春惜しみつつ島に隠れぬ

2018-088:省(横雲)
膠も無き手間省くかのメールあり別れの言葉なきままにして

2018-089:巌(横雲)
なほ吾に巌を通す一念の熱はありやと心に問へり

2018-090:トップ(横雲)
老いらくの狂恋もはやつきぬらむノンストップの終着近し


 「散る花に」091---100
12018-091:勘(横雲)
見つめつついらふる君の笑む顔を勘違ひして恋の始まる

2018-092:醤(横雲)
氷にも酢醤油かくる人と居て香れる風に過ぎしひと夏

2018-093:健(横雲)
笑む顔の健気(けなげ)にみえて妖しきを知るやしらずや君はにつこり

2018-094:報告(横雲)
散る花に因果応報告げられて風吹き荒るる行方やしれぬ

2018-095:廃(横雲)
人の世ははやり廃りの浮き沈み春待たぬ日の諦めの色

2018-096:協(横雲)
ゆるらかに妥協重ねし果てにある老いを愛しみわが恋終る

2018-097:川(横雲)
匂ひたつ合歓(ねむ)の眠れる湯の宿や川瀬の音に雨のけぶれり

2018-098:執(横雲)
逃れえぬ修羅の妄執いだきつも老い行く先に春は来むとす

2018-099:致(横雲)
ふりゆけば致し方なく別れたりのちのおもひを埋めしままに

2018-100:了(横雲)
詠ひしは制御不能に陥りて強制終了せし恋の曲折


(寄り道コース)
 「忘られし記憶」101---110
2018-101:壱(横雲)
壱の籤曳きてうれしき初詣共に梅見し若き日想ふ

2018-102:弐(横雲)
弐心咎めて去れる君の影散りかかりたる花や哀しき

2018-103:肆(横雲)
懐かしやふたりで読みし思ひ出の詩集みつくる書肆の棚に

2018-104:イレブン(横雲)
いま残る君の詠みたる歌の数イレブンナインの愛の結晶

2018-105:廿(横雲)
みてぐらを廿四孝にならへどもこの咎罪は神も許さじ

2018-106:九十九(横雲)
ふりたちし面影に見ゆ九十九髪(つくもがみ)老いて逢いたき人にぞありける

2018-107:萬(横雲)
春の夜の一人遊びの萬華鏡夢転がりて胸に湧くみの

2018-108:ミリオン(横雲)
ふたり行くサンテミリオン空碧くワインに酔ふて巡礼の径

2018-109:那由他(横雲)
那由他てふ名を持つ人に説かれたる仏の寿命我が罪の数

2018-110:無限大(横雲)
豊穣の見渡す限りの無限大君と語りし若き日の夢

『完』


# by asitanokumo | 2018-02-14 17:31 | 題詠まとめ