王朝風和歌100首
冬に入る
もみぢ葉を散らす時雨の音寂しふりゆく身にも冬のきにける 横雲 1
水鳥は冬に入りたる池のおもうきねをぞなく恋をするかな 横雲 2
-11-8
片時雨
もみぢ葉に降りみ降らずみ片時雨ぬるるおもひや袖の染まりぬ 横雲 3
ふりそめて袖に時雨るる神無月むかしをこふる色やまされる 横雲 4
-11-10
姫椿
薄紅のいつ咲きたるや姫椿月の明かりに濡れて染まりぬ 横雲 5
あふ人のなきまま時のうつろふもみそかに咲ける姫椿かな 横雲 6
-11-12
思ひ草
紫の露に濡れたる思ひ草思ひの色のいよよ濃くせる 横雲 7
人知れずしぼる涙に思ひ草思ひの色に染めらるる秋 横雲 8
-11-14
小春の空
風の無き小春日和の心地よく深山に敷ける錦踏みゆく 横雲 9
行く末の知れぬ定めをいとほしむ小春の空に雲は流るる 横雲 10
-11-16
冬の半月
更け行けば光も色も寂しさもひとしほさゆる冬の半月 横雲 11
見あぐれば冬の半月身にしみてはかなき夢のえやは忘るる 横雲 12
-11-18
小夜時雨
しほたるるひとり旅寝の小夜時雨薄き衣にうき世歎きつ 横雲 13
音に聞く老のね覚の小夜時雨夢の跡なる袖や濡れたる 横雲 14
-11-20
夫婦の日
年ふりてめをとを祝ふ日の朝は老ひゆく身をばかこつ朝なり 横雲 15
小雪舞ひ冬仕度する夫婦岩寄する白波千世の数かも 横雲 16
-11-22
冬紅葉
いかにせむ静けき雨に冬紅葉忍ぶにあまる色濡らしつる 横雲 17
色染めて冬のもみじ葉濡らしゆく時雨にまさるわが涙かな 横雲 18
-11-24
枯葉
降り積める枯葉踏む音哀しみて寝待の月の影のこほれり 横雲 19
冬来ぬと枯葉を飛ばす風の音のうらみてもなほ身にしむるかな 横雲 20
-11-26
落葉道
うづもるる落葉の道を踏み行くやうつつか夢か心迷へる 横雲 21
木枯しの風の音聴き落葉掃く恋しきことの数かぞへつつ 横雲 22
-11-28
冬の日
老ゆけば恋つつ暮るる冬の日の温き光の手に零れ満つ 横雲 23
暮れやすき日のひねもすをかこちつつあかぬ心はひと待ちかぬる 横雲 24
-11-30
葉の露
木の下の露の氷れるあさまだき物思ふ人の影やかそけし 横雲 25
露置ける森の下葉に寂しさの面影残し人の去りゆく 横雲 26
-12-2
裸木
木の葉なき枝にむなしく流れゆく雲に紛へるわが想ひかな 横雲 27
裸木となれる大樹の影の濃くこの通ひ路に年のふりゆく 横雲 28
-12-4
冬の朝
さらでだにうきの身にしむ冬の朝垣穂の君の影のかなしき 横雲 29
冬の朝なほ色増せる葉に透ける光に定なき世を愁ふ 横雲 30
-12-6
木枯し
音高く落葉を舞はす木枯しのむせぶ思ひや色のつれなし 横雲 31
手枕にしるく聞こゆや音高く何ぞかなしも夜半の木枯し 横雲 32
-12-8
冬三日月
夢なれや冬の三日月残る朝思ひたゆとも影の恋しき 横雲 33
冬雲の切れ間にほのか三日月の反りて寒さの冴え返りたり 横雲 34
-12-10
寒風
凍て風の音聴く夜半や寝覚めして思ひ定めぬ身のうかりける 横雲 35
風寒みこほれる想ひ掛けとどめ細かる月にいのち頼めり 横雲 36
-12-12
鐘氷る
ほの聞こゆ鐘冴ゆる朝恃めども老のね覚めの憂き身かこてり 横雲 37
ひとりぬる枕に朝の鐘氷るうき世の夢の見果てぬままに 横雲 38
-12-14
師走の月
影さむきしはすの月の細かるに遥か雲居の君恃むかな 横雲 39
色寒み残りすくなき日を数へ細かる月に夢を恃みぬ 横雲 40
-12-16
ゆり鴎
都鳥ひとひ川面を眺めつつうきを知らでや年のふりゆく 横雲 41
夢ぬちに影のかそけくゆり鴎いかでかひなきあふ瀬にうきぬ 横雲 42
-12-18
虎落笛(もがりぶえ)
夕暮のまろき月影虎落笛残る色なき梢に冴えて 横雲 43
きこゆるは身にしみわたる虎落笛悶えこがるる冬のいたまし 横雲 44
-12-20
冬鳥
短日の淵瀬つたひて行く波に暮れゆく年の冬鳥の影 横雲 45
嘴を胸に埋めし寒禽のふかき思ひを誰ぞ知るらむ 横雲 46
-12-22
冬薔薇
ほんのりと淡き色なり冬薔薇残る命を光にゆだぬ 横雲 47
萎れたる薔薇の実冬の空にありあだなる物といふべかりけり 横雲 48
-12-24
霜
霜晴の眩しき空に風のありちぎりの袖に木の葉の散りて 横雲 49
散れる葉の色そめかへす今朝の霜わか言のはの色やかはらぬ 横雲 50
-12-26
薄氷(うすらひ)
池水の泡をやどせる薄氷のあやふき想ひやがて消ゆるも 横雲 51
薄氷をつつきて知るや今朝の冷え人の心のたのみがたきも 横雲 52
-12-28
小晦日(こつごもり)
来る春を待つも嬉しき小晦日こころ交はすや老い重ねつも 横雲 53
眺めつつやすらふ程に小晦日昔を今に思ひなしつつ 横雲 54
-12-30
年立ちかえる
あら玉の年たちかへる朝の空思ふ心のかぎりなきかな 横雲 55
病む翳を隠す如くもひそやかに白梅咲けるあらたまの年 横雲 56
-1-2
初夢
日ノ本の落つるを知るもとどめ兼ねひたすら落つや初夢の憂き 横雲 57
初夢の覚めておぼろにはかなくもうつつのやみに惑ひぬるかな 横雲 58
-1-4
寒の入り
あからひく霜白き朝寒に入るおもふものから我身むなしき 横雲 59
うすらひの色確かむる寒の入り結ぶ思ひのとくるをうれふ 横雲 60
-1-6
松明け
ふればこそ恋しかりけれうき雲の峰にわかるる松明けの空 横雲 61
豊御酒のゑひ醒めてこそ松過ぎの色香の見えてうれしかりけれ 横雲 62
-1-8
冬三日月
山の端に鋭く冴えて光りつつ心にぞ入る冬の三日月 横雲 63
面影を冬三日月に恃めども巡りあふ身の細きや哀し 横雲 64
-1-10
寒烏
風渡る梢の孤影寒烏翼垂らして一声啼きぬ 横雲 65
大ぶりの冬の烏の影ひとつ梢にありて日の暮るるかな 横雲 66
-1-12
寒の水
掌に掬くへば痛き寒の水世の行く末の闇に迷ひて 横雲 67
腑に沁みて寒九の水と知られける老いらくの身に嘆き重ぬも 横雲 68
-1-14
春を待つ
老いの身のね覚に春を待つここちして月影はあり明の空 横雲 69
年ごとのたより途切れて梅蕾色のかたきや春遠くして 横雲 70
-1-16
冬日向
冬の日を肩に受けつつかれがれの道に佇み哀しきを知る 横雲 71
一匹の猫眠りゐる冬日向身をうきものとかこつべらなり 横雲 72
-1-18
冬の夜
冬の夜の光さやかに零れ敷く何恨みてや泪の散れる 横雲 73
春恋ふる心を知るや冬の夜の梢にしるく月冴えわたる 横雲 74
-1-20
実万両
隠栖のひそかに赤き実万両ひとりぬるよの身のかひもなく 横雲 75
数ならぬ身の嘆きかな万両の残りたる実や涙の赤し 横雲 76
-1-22
春いまだ
水鳥のうきねをなくとしるらめや春の遠きを澄む空に見て 横雲 77
唇に風の冷たく春いまだ梢に椋の啼く声もなく 横雲 78
-1-24
冬銀河
冬銀河低き山並みしたがへて澄める光のいよよ増したり 横雲 79
風寒み祈りて仰ぐ冬銀河雲ゐに花のいつや咲かまし 横雲 80
-1-26
唐梅(からうめ)
唐梅に春のきぬるや咲きにけるやがて暮るるも待ち人は来ず 横雲 81
臘梅の咲くや日溜まり人去りて偲ぶ思ひの色に濡れける 横雲 82
-1-28
狐火
老いゆくや青き狐火並びたる闇に惑ひし夢覚めずして 横雲 83
狐火のしのび逢ふ夜の思ひかな消えたるあとに影のかひなく 横雲 84
-1-30
探梅行
年ごとの梅の香りを探りゆく旅寝の夢に逢ふこともがな 横雲 85
梅探る夢路をかけて匂ふ風むすぶともなく枕に消ゆる 横雲 86
-2-1
節分
老いゆけば追儺の声にしはぶきぬ行く方のなき鬼神のごとく 横雲 87
しらぎぬに風やはらかき節分会待ちてし春は巫女の手にあり 横雲 88
-2-3
野火
堤焼く煙棚引く春の野はながなをたのみ下もえわたる 横雲 89
野火消えし野を佇みて夕暮るる忍ぶ思ひの色を残して 横雲 90
-2-5
春生りて
薄紅にほころぶ蕾春生りてことばの花のいづち咲くらむ 横雲 91
しるらめや待つとしもなく老い楽の春を重ぬる下萌えの色 横雲 92
-2-7
水の春
生まれてはたゆたふおもひ水の春角組む荻に光のどけし 横雲 93
春の水ながるる音の細かるも色やはらかに草の萌えいづ 横雲 94
-2-9
淡雪
ふるほどに木の芽につもる淡雪のこころなりせばうちとくるかな 横雲 95
逢えぬままふりゆく春の淡雪につもる思ひを忘やはする 横雲 96
-2-11
春浅し
袖濡らす雪には春の匂ひして世にふる老の寝覚哀しも 横雲 97
春浅き空よりおつる淡雪の色にまがへる匂ひかそけし 横雲 98
-2-13
風船
風無きに紙風船のいぶかしく揺るるともなく手よりこぼれし 横雲 99
色淡く空にとけゆく風船のあはれとみえて春を恨みぬ 横雲 100
その時々の季語を題にして王朝風和歌100首を詠もうと始めたのが、昨年11月8日。詠んでるうちにテーマを見失ってしまったようだが、とりあえず「100首」になったので終了とする。100日など瞬く間に過ぎるこの頃である。
-2-15