「老いたる人のひそかなる恋心を詠める」(2023年題詠100)
2023-参加表明(詠弛)
今年はこの企画をゆっくり詠んで楽しもうと、文語口語にとらわれず「詠弛」の名で週3首「火・木・土」の投稿をめざしたい。これは「燃えるものの回収日」でもある。よろしくお願いいたします。
月11首、10ヶ月で110首詠む計画。
2023-101:甲(詠弛)
ゆるゆると歌詠む春や鼈甲の小櫛に白き幾筋梳ける
2023-102:乙(詠弛)
花の宴長き黒髪誇りたる乙女も今は白く透くゆく
2023-103:丙(詠弛)
選別の丙種の味も捨てがたしへうへうとして生きたる証し
2023-104:丁(詠弛)
丁字路に別れし人の影消えて灯し寂しく街は暮れたり
2023-105:戊(詠弛)
あつさりと春は来にけりの句ありて文化甲戊の春偲ぶ
江戸時代の俳人・小林一茶の人生は、不幸の塊だったが、50歳の冬、「これがまあ終の栖か雪五尺」と詠む郷里柏原に帰った。文化11年甲戌(1814)52歳で初めて若い妻を迎えることになる、その歳旦の句が「あつさりと春は来にけり浅黄空」。
2023-106:己(詠弛)
花持てぬ己が身ひとつ歎きゐて逢へずに過ぐるひと日の長し
2023-107:庚(詠弛)
はるけくて眺むるばかり長庚の夕べの春の夢は朧に
2023-108:辛(詠弛)
あけぼのの木の芽起こしの雨に濡れ咲けるは辛き芥子菜の花
2023-109:壬(詠弛)
思い出が遠くになって京壬生菜浅漬け食めば梅まっ盛り
2023-110:癸(詠弛)
癸卯の賀状の返事おぼおぼし兎は猫か豚とも見えて
寄り道コース10首何とか詠みました。十干は他の使い方がないものがあり無理な形にならざるを得ないように思えました。
3月
さめやらぬこひのなごりをおしみつつ
《2023年》
2023-001:引(詠弛)
引き潮の七里ヶ浜の浅き瀬にふたり遊びし影の遥けし
2023-002:寝(詠弛)
春の夜の夢の浮橋行き損ね君の寝顔をそっと見つめる
2023-003:古(詠弛)
雛まつる古本市の稽古本薄いよごれに春の陽射して
2023-004:耳(詠弛)
空耳か君の声聞く春の空うつろひ嘆く老いの僻耳
2023-005:程度(詠弛)
魂極る老いの身なれば近頃は嫌という程度忘れひどい
2023-006:確(詠弛)
お互いに確め合ったことでさえ今ではすっかり忘れ去られた
2023-007:おにぎり(詠弛)
おにぎりをおむすびという人といた早春の野に陽が匂い立つ
2023-008:較(詠弛)
較べ合う老いの嘆きの極みとて互いの記憶にないランデヴー
2023-009:一時(詠弛)
どれにする? 料理の前の二者択一時には三者択一の贅
2023-010:愚(詠弛)
福茶飲み溢れる愚痴を聞き流す恙なく今生きて平穏
2023-011:イメージ(詠弛)
さりげなくイメージアップを図ろうと短歌を詠んで過ぎた年月
2023-012:娯(詠弛)
明日知れぬ命娯しむ老いの身に今舞ひあがる阿鼻機流の夢
春眠に誘われている講習所はるかに君の声が聞こえる
2023-014:ほんのり(詠弛)
ほんのりと桜吹雪の中にいた四月五日は記念日だった
2023-015:戸(詠弛)
古井戸の残る庭にも桜散るここでは泣いていいんですって
2023-016:険(詠弛)
仲隔つ天下の険のくれなづみ山辺にひそと片栗の花
2023-017:俳句(詠弛)
年毎に句会で作る俳句集凡句並ぶもそれなりの味
2023-018:就(詠弛)
老い就くや余命の延びてうららかの春のひとひに八十(やそぢ)祝へり
2023-019:賀(詠弛)
足裏の砂の冷たさ春の海浦廻 (うらみ)に寄せる志賀のさざ波
2023-020:みじめ(詠弛)
宴会のしめのラーメン辛みじめ涙で歌う旅立ちの歌
2023-021:雫(詠弛)
雨やみて香る若葉の雫落つ鳥になりたきおぼろ夕暮
2023-022:重(詠弛)
実らぬも黄の鮮ぐや思ひ出はしなやかに咲け八重の山吹
2023-023:毎日(詠弛)
逢いたくも約束のない日めくりを甲斐のないまま毎日めくる
5月
2023-024:禿(詠弛)
筆箱に禿び筆一本残りたり旧り行く身にも降る青葉雨
2023-025:混(詠弛)
春秋の思い拾えば悲喜混じる二人の歴史はや五十年
2023-026:子ども(詠弛)
菖蒲湯に浸かって過ごす子どもの日老いたる身にもやすらぎのあり
2023-027:著(詠弛)
樹の下に密かに咲ける著莪の花ひそかながらの思ひ重ぬる
2023-028:役所(詠弛)
汚れ役所謂主人を引き立てる名脇役として生きた君かな
2023-029:絶(詠弛)
苦しくも共に生きたきその道の思ひ絶たれし夏の思ひ出
2023-030:グラム(詠弛)
時々のインスタグラムに記される穏やかに経(ふ)る君の明け暮れ
2023-031:貿(詠弛)
世の変化陵谷遷貿(りょうこくせんぼう)激しかり一人静かに珈琲淹れる
2023-032:抜(詠弛)
骨抜きにされて腑抜けて腰が抜け鼻毛抜かれた間抜け面かな
2023-033:ひらひら(詠弛)
夏蝶がひらひら一羽二羽三羽今日の予定は決めかねている
2023-034:倣(詠弛)
彼の人に倣ひて詠めどわが思ひ通はぬままに雨ふりやまず
6月
2023-035:測(詠弛)
推し測る気持ちの丈は不確かでもつれもつれて鴨足草(ゆきのした)咲く
2023-036:削除(詠弛)
誕生日祝えないまま甘々の削除できない記憶が辛い
2023-037:荻(詠弛)
風立てる河原に萌ゆる荻若葉瞼閉づれば面影若し
2023-038:ゲーテ(詠弛)
真相は辿りきれずにゲーティングされて私の願いは消えた
2023-039:吊(詠弛)
思ひ出は逆吊りの花褪せし色してゆらゆらと風に吹かるる
2023-040:紺(詠弛)
朝顔に紺の滲める蕾在り紺の絞の浴衣なつかし
2023-041:覗(詠弛)
不確かな君の心を覗ふも闇深くして窺い知れず
2023-042:爽やか(詠弛)
高原の風爽やかに逝きたまふ人偲ばるや吹き渡りたる
2023-043:掻(詠弛)
湧き出づる思ひの丈を湯の花の如くに搔きて集めたりしも
2023-044:批(詠弛)
頬批(う)てる掌(て)の冷たさやしずまれる逢魔が時の花散る記憶
2023-045:筏(詠弛)
思い出は花筏の実哀しみを葉の上の乗せ色変えていく
7月
2023-046:憐れ(詠弛)
生類を憐れむの令の真の意図改め問へる弱者救済
2023-047:塀(詠弛)
塀沿ひに片陰拾ひ行く道の奥に現る庚申の塔
2023-048:伺(詠弛)
かの人は如何にと機嫌伺ふも七夕の絲虚しく揺れて
2023-049:水仙(詠弛)
清らかな音を聞かせて湧く清水仙石原の花園に流る
2023-050:範(詠弛)
若きとき模範となれる人たれと諭されし日はなほ懐かしき
2023-051:履(詠弛)
誤りの多い履歴を消したれど人生の垢虚しく残る
2023-052:全体(詠弛)
精神は至極健全体力は虚弱になれど明日を夢見る
2023-053:党(詠弛)
甘党という悪党を愛したり己は酒を手放せなくも
2023-054:いよいよ(詠弛)
雲白くいよいよ夏も盛りなり熟れしトマトをてのひらに盛る
2023-055:釘(詠弛)
秘密よと釘刺されたが酔い任せその後のことはあずかり知らず
2023-056:謙(詠弛)
わが友に謙虚に生きる人ありて恙なく過ぐ有難きかな
8月
2023-057:ライン(詠弛)
夏闌けて今朝はなほ濃きアイライン暑さにめげぬ心意気かな
2023-058:箇(詠弛)
風鈴の音も澄めるやいつくしく緑色濃き五箇山の夏
2023-059:診(詠弛)
取り澄まし脈とり終えた代診の女先生笑顔をこぼす
2023-060:醤油(詠弛)
醤油つけ香りよく焼く玉蜀黍キャンプ場には子らの歓声
2023-061:庇(詠弛)
夕立を避けて庇に駆け込めば店の奥にはお酒のコーナー
2023-062:魔(詠弛)
よしきりの啼き止み里は逢ふ魔時呼び合ふ声のひそけく響く
2023-063:こぶし(詠弛)
夏空に見上ぐこぶしはほんのりと実を色づかせ時を待ちけり
2023-064:閣(詠弛)
喧騒を逃れ登れる楼閣に涼風受けて街眺めゐる
2023-065:状(詠弛)
艶状をいくら書いても返事なく募る想いはただ秋の空
2023-066:二階(詠弛)
二階から下着のままに手を振れる若きひとゐし坂の花街
2023-067:乞(詠弛)
白露を硯に移し書きし歌乞巧奠の残り香ほのか
9月
2023-068:捕(詠弛)
火の山の麓の村に哀しきや透ける蜻蛉の翅を捕らふる
2023-069:トンネル(詠弛)
廃線のトンネル残る山の道夏の終わりの旅の哀しさ
2023-070:請(詠弛)
被災弛の色とりどりの仮普請空の高さは恨めしいほど
2023-071:感謝(詠弛)
忌憚なく感謝の言葉告げられず別れたままに時は去り行く
2023-072:惰(詠弛)
腰さすり惰夫めく歩む秋の夜の風のそよぎに死の話して
2023-073:からくり(詠弛)
からくりの止まるや夏の店仕舞ひ水の流れの響き虚しく
2023-074:腫(詠弛)
腫れ物にそっと触ってみるようにあなたの肩に手をやった夏
2023-075:案内(詠弛)
案内の指さす方は山深し親しき里をはるか見おろす
2023-076:灰(詠弛)
火の山の灰降る里の秋深む浸かる露天の湯に紅葉散る
2023-077:畳(詠弛)
秋冷の銀杏転がる石畳骨董市の準備終はれり
2023-078:スマート(詠弛)
遠つ人待つ秋の夜やはかなくもスマートフォンに届かぬ声音
10月
2023-079:僅(詠弛)
老いの身に僅かの望み恃みつつながらふ秋の実の付かずして
2023-080:載(詠弛)
千載に残す名なくもなが胸になほ残れるをたのむ夕暮
2023-081:手ごたえ(詠弛)
手ごたえの無きまま暮れる秋の空思ひの丈の色の深きも
2023-082:侮(詠弛)
去り際の侮蔑の言葉聞き流し涙隠せる秋遥かなり
2023-083:浄(詠弛)
触れ合はず浄き心を抱きつつ月より遥か遠きを嘆く
2023-084:授業(詠弛)
授業なき教室の闇引寄せて輝く明日を夢に見し秋
2023-085:潤(詠弛)
潤む目で見る月影に遥かなる想ひはいよよ霞みゆくかな
2023-086:派手(詠弛)
若き日の派手なショールを巻く君の肩に揚羽はせはしなく舞ふ
2023-087:汰(詠弛)
忍ぶれど音沙汰無しの秋の暮空血の色に染まり美し
2023-088:メンバー(詠弛)
秋深みさびしき夜をむせびつつ心で歌ふリメンバーミー
2023-089:癒(詠弛)
癒ゆる日を願ひて歩む秋の原すすきかるかやまた吾亦紅
11月
2023-090:諮(詠弛)
何事も家族に諮る方針も疼く心はままならぬまま
2023-091:ささやか(詠弛)
ささやかの想ひも今は枯れ果てて木瓜の実萎れ冬を待ちゐる
2023-092:房(詠弛)
山里の一人居の夜や暖房の効き確かなりビール冷たし
2023-093:預(詠弛)
預かりしものを返せず時途絶ゆ風の音のみ聴く冬の夕
2023-094:希望(詠弛)
老いしこそかつてありたる希望てふたゆたふ影を恃みにもせめ
2023-095:滴(詠弛)
一滴の涙に光る冬の海晩暉没して罪びととなる
2023-096:雌(詠弛)
夏ごとに摘みし山椒の雌の木の枯れて山荘ひとり寂しむ
2023-097:天気(詠弛)
結構な天気つゞきの冬の日を無為に過ごせりこれもまた良し
2023-098:辱(詠弛)
この世にて晴らせぬままか辱め受けし夜のことふと蘇る
2023-099:備(詠弛)
ささやかな備忘録にも記されぬこと重なりて年は更け行く
2023-100:掛(詠弛)
老いらくのひそかに掛ける想ひ文綴りし束の屑籠に満つ
2023-完走報告(詠弛)
老いらくのひそかな恋を詠み捨てて虚しく越えし八十路の峠
あつさりとまた来る春を恃みつつ呟く如き完走報告
2023-参加表明(詠弛)
今年はこの企画をゆっくり詠んで楽しもうと、文語口語にとらわれず「詠弛」の名で週3首「火・木・土」の投稿をめざしたい。これは「燃えるものの回収日」でもある。よろしくお願いいたします。
月11首、10ヶ月で110首詠む計画。
《2023年》
2月
(寄り道コース)2023-101:甲(詠弛)
ゆるゆると歌詠む春や鼈甲の小櫛に白き幾筋梳ける
2023-102:乙(詠弛)
花の宴長き黒髪誇りたる乙女も今は白く透くゆく
2023-103:丙(詠弛)
選別の丙種の味も捨てがたしへうへうとして生きたる証し
2023-104:丁(詠弛)
丁字路に別れし人の影消えて灯し寂しく街は暮れたり
2023-105:戊(詠弛)
あつさりと春は来にけりの句ありて文化甲戊の春偲ぶ
江戸時代の俳人・小林一茶の人生は、不幸の塊だったが、50歳の冬、「これがまあ終の栖か雪五尺」と詠む郷里柏原に帰った。文化11年甲戌(1814)52歳で初めて若い妻を迎えることになる、その歳旦の句が「あつさりと春は来にけり浅黄空」。
2023-106:己(詠弛)
花持てぬ己が身ひとつ歎きゐて逢へずに過ぐるひと日の長し
2023-107:庚(詠弛)
はるけくて眺むるばかり長庚の夕べの春の夢は朧に
2023-108:辛(詠弛)
あけぼのの木の芽起こしの雨に濡れ咲けるは辛き芥子菜の花
2023-109:壬(詠弛)
思い出が遠くになって京壬生菜浅漬け食めば梅まっ盛り
2023-110:癸(詠弛)
癸卯の賀状の返事おぼおぼし兎は猫か豚とも見えて
寄り道コース10首何とか詠みました。十干は他の使い方がないものがあり無理な形にならざるを得ないように思えました。
3月
さめやらぬこひのなごりをおしみつつ
《2023年》
2023-001:引(詠弛)
引き潮の七里ヶ浜の浅き瀬にふたり遊びし影の遥けし
2023-002:寝(詠弛)
春の夜の夢の浮橋行き損ね君の寝顔をそっと見つめる
2023-003:古(詠弛)
雛まつる古本市の稽古本薄いよごれに春の陽射して
2023-004:耳(詠弛)
空耳か君の声聞く春の空うつろひ嘆く老いの僻耳
2023-005:程度(詠弛)
魂極る老いの身なれば近頃は嫌という程度忘れひどい
2023-006:確(詠弛)
お互いに確め合ったことでさえ今ではすっかり忘れ去られた
2023-007:おにぎり(詠弛)
おにぎりをおむすびという人といた早春の野に陽が匂い立つ
2023-008:較(詠弛)
較べ合う老いの嘆きの極みとて互いの記憶にないランデヴー
2023-009:一時(詠弛)
どれにする? 料理の前の二者択一時には三者択一の贅
2023-010:愚(詠弛)
福茶飲み溢れる愚痴を聞き流す恙なく今生きて平穏
2023-011:イメージ(詠弛)
さりげなくイメージアップを図ろうと短歌を詠んで過ぎた年月
2023-012:娯(詠弛)
明日知れぬ命娯しむ老いの身に今舞ひあがる阿鼻機流の夢
4月
2023-013:講(詠弛)春眠に誘われている講習所はるかに君の声が聞こえる
2023-014:ほんのり(詠弛)
ほんのりと桜吹雪の中にいた四月五日は記念日だった
2023-015:戸(詠弛)
古井戸の残る庭にも桜散るここでは泣いていいんですって
2023-016:険(詠弛)
仲隔つ天下の険のくれなづみ山辺にひそと片栗の花
2023-017:俳句(詠弛)
年毎に句会で作る俳句集凡句並ぶもそれなりの味
2023-018:就(詠弛)
老い就くや余命の延びてうららかの春のひとひに八十(やそぢ)祝へり
2023-019:賀(詠弛)
足裏の砂の冷たさ春の海浦廻 (うらみ)に寄せる志賀のさざ波
2023-020:みじめ(詠弛)
宴会のしめのラーメン辛みじめ涙で歌う旅立ちの歌
2023-021:雫(詠弛)
雨やみて香る若葉の雫落つ鳥になりたきおぼろ夕暮
2023-022:重(詠弛)
実らぬも黄の鮮ぐや思ひ出はしなやかに咲け八重の山吹
2023-023:毎日(詠弛)
逢いたくも約束のない日めくりを甲斐のないまま毎日めくる
5月
2023-024:禿(詠弛)
筆箱に禿び筆一本残りたり旧り行く身にも降る青葉雨
2023-025:混(詠弛)
春秋の思い拾えば悲喜混じる二人の歴史はや五十年
2023-026:子ども(詠弛)
菖蒲湯に浸かって過ごす子どもの日老いたる身にもやすらぎのあり
2023-027:著(詠弛)
樹の下に密かに咲ける著莪の花ひそかながらの思ひ重ぬる
2023-028:役所(詠弛)
汚れ役所謂主人を引き立てる名脇役として生きた君かな
2023-029:絶(詠弛)
苦しくも共に生きたきその道の思ひ絶たれし夏の思ひ出
2023-030:グラム(詠弛)
時々のインスタグラムに記される穏やかに経(ふ)る君の明け暮れ
2023-031:貿(詠弛)
世の変化陵谷遷貿(りょうこくせんぼう)激しかり一人静かに珈琲淹れる
2023-032:抜(詠弛)
骨抜きにされて腑抜けて腰が抜け鼻毛抜かれた間抜け面かな
2023-033:ひらひら(詠弛)
夏蝶がひらひら一羽二羽三羽今日の予定は決めかねている
2023-034:倣(詠弛)
彼の人に倣ひて詠めどわが思ひ通はぬままに雨ふりやまず
6月
2023-035:測(詠弛)
推し測る気持ちの丈は不確かでもつれもつれて鴨足草(ゆきのした)咲く
2023-036:削除(詠弛)
誕生日祝えないまま甘々の削除できない記憶が辛い
2023-037:荻(詠弛)
風立てる河原に萌ゆる荻若葉瞼閉づれば面影若し
2023-038:ゲーテ(詠弛)
真相は辿りきれずにゲーティングされて私の願いは消えた
2023-039:吊(詠弛)
思ひ出は逆吊りの花褪せし色してゆらゆらと風に吹かるる
2023-040:紺(詠弛)
朝顔に紺の滲める蕾在り紺の絞の浴衣なつかし
2023-041:覗(詠弛)
不確かな君の心を覗ふも闇深くして窺い知れず
2023-042:爽やか(詠弛)
高原の風爽やかに逝きたまふ人偲ばるや吹き渡りたる
2023-043:掻(詠弛)
湧き出づる思ひの丈を湯の花の如くに搔きて集めたりしも
2023-044:批(詠弛)
頬批(う)てる掌(て)の冷たさやしずまれる逢魔が時の花散る記憶
2023-045:筏(詠弛)
思い出は花筏の実哀しみを葉の上の乗せ色変えていく
7月
2023-046:憐れ(詠弛)
生類を憐れむの令の真の意図改め問へる弱者救済
2023-047:塀(詠弛)
塀沿ひに片陰拾ひ行く道の奥に現る庚申の塔
2023-048:伺(詠弛)
かの人は如何にと機嫌伺ふも七夕の絲虚しく揺れて
2023-049:水仙(詠弛)
清らかな音を聞かせて湧く清水仙石原の花園に流る
2023-050:範(詠弛)
若きとき模範となれる人たれと諭されし日はなほ懐かしき
2023-051:履(詠弛)
誤りの多い履歴を消したれど人生の垢虚しく残る
2023-052:全体(詠弛)
精神は至極健全体力は虚弱になれど明日を夢見る
2023-053:党(詠弛)
甘党という悪党を愛したり己は酒を手放せなくも
2023-054:いよいよ(詠弛)
雲白くいよいよ夏も盛りなり熟れしトマトをてのひらに盛る
2023-055:釘(詠弛)
秘密よと釘刺されたが酔い任せその後のことはあずかり知らず
2023-056:謙(詠弛)
わが友に謙虚に生きる人ありて恙なく過ぐ有難きかな
8月
2023-057:ライン(詠弛)
夏闌けて今朝はなほ濃きアイライン暑さにめげぬ心意気かな
2023-058:箇(詠弛)
風鈴の音も澄めるやいつくしく緑色濃き五箇山の夏
2023-059:診(詠弛)
取り澄まし脈とり終えた代診の女先生笑顔をこぼす
2023-060:醤油(詠弛)
醤油つけ香りよく焼く玉蜀黍キャンプ場には子らの歓声
2023-061:庇(詠弛)
夕立を避けて庇に駆け込めば店の奥にはお酒のコーナー
2023-062:魔(詠弛)
よしきりの啼き止み里は逢ふ魔時呼び合ふ声のひそけく響く
2023-063:こぶし(詠弛)
夏空に見上ぐこぶしはほんのりと実を色づかせ時を待ちけり
2023-064:閣(詠弛)
喧騒を逃れ登れる楼閣に涼風受けて街眺めゐる
2023-065:状(詠弛)
艶状をいくら書いても返事なく募る想いはただ秋の空
2023-066:二階(詠弛)
二階から下着のままに手を振れる若きひとゐし坂の花街
2023-067:乞(詠弛)
白露を硯に移し書きし歌乞巧奠の残り香ほのか
9月
2023-068:捕(詠弛)
火の山の麓の村に哀しきや透ける蜻蛉の翅を捕らふる
2023-069:トンネル(詠弛)
廃線のトンネル残る山の道夏の終わりの旅の哀しさ
2023-070:請(詠弛)
被災弛の色とりどりの仮普請空の高さは恨めしいほど
2023-071:感謝(詠弛)
忌憚なく感謝の言葉告げられず別れたままに時は去り行く
2023-072:惰(詠弛)
腰さすり惰夫めく歩む秋の夜の風のそよぎに死の話して
2023-073:からくり(詠弛)
からくりの止まるや夏の店仕舞ひ水の流れの響き虚しく
2023-074:腫(詠弛)
腫れ物にそっと触ってみるようにあなたの肩に手をやった夏
2023-075:案内(詠弛)
案内の指さす方は山深し親しき里をはるか見おろす
2023-076:灰(詠弛)
火の山の灰降る里の秋深む浸かる露天の湯に紅葉散る
2023-077:畳(詠弛)
秋冷の銀杏転がる石畳骨董市の準備終はれり
2023-078:スマート(詠弛)
遠つ人待つ秋の夜やはかなくもスマートフォンに届かぬ声音
10月
2023-079:僅(詠弛)
老いの身に僅かの望み恃みつつながらふ秋の実の付かずして
2023-080:載(詠弛)
千載に残す名なくもなが胸になほ残れるをたのむ夕暮
2023-081:手ごたえ(詠弛)
手ごたえの無きまま暮れる秋の空思ひの丈の色の深きも
2023-082:侮(詠弛)
去り際の侮蔑の言葉聞き流し涙隠せる秋遥かなり
2023-083:浄(詠弛)
触れ合はず浄き心を抱きつつ月より遥か遠きを嘆く
2023-084:授業(詠弛)
授業なき教室の闇引寄せて輝く明日を夢に見し秋
2023-085:潤(詠弛)
潤む目で見る月影に遥かなる想ひはいよよ霞みゆくかな
2023-086:派手(詠弛)
若き日の派手なショールを巻く君の肩に揚羽はせはしなく舞ふ
2023-087:汰(詠弛)
忍ぶれど音沙汰無しの秋の暮空血の色に染まり美し
2023-088:メンバー(詠弛)
秋深みさびしき夜をむせびつつ心で歌ふリメンバーミー
2023-089:癒(詠弛)
癒ゆる日を願ひて歩む秋の原すすきかるかやまた吾亦紅
11月
2023-090:諮(詠弛)
何事も家族に諮る方針も疼く心はままならぬまま
2023-091:ささやか(詠弛)
ささやかの想ひも今は枯れ果てて木瓜の実萎れ冬を待ちゐる
2023-092:房(詠弛)
山里の一人居の夜や暖房の効き確かなりビール冷たし
2023-093:預(詠弛)
預かりしものを返せず時途絶ゆ風の音のみ聴く冬の夕
2023-094:希望(詠弛)
老いしこそかつてありたる希望てふたゆたふ影を恃みにもせめ
2023-095:滴(詠弛)
一滴の涙に光る冬の海晩暉没して罪びととなる
2023-096:雌(詠弛)
夏ごとに摘みし山椒の雌の木の枯れて山荘ひとり寂しむ
2023-097:天気(詠弛)
結構な天気つゞきの冬の日を無為に過ごせりこれもまた良し
2023-098:辱(詠弛)
この世にて晴らせぬままか辱め受けし夜のことふと蘇る
2023-099:備(詠弛)
ささやかな備忘録にも記されぬこと重なりて年は更け行く
2023-100:掛(詠弛)
老いらくのひそかに掛ける想ひ文綴りし束の屑籠に満つ
2023-完走報告(詠弛)
老いらくのひそかな恋を詠み捨てて虚しく越えし八十路の峠
あつさりとまた来る春を恃みつつ呟く如き完走報告
今年の題詠100 は「老いたる人のひそかなる恋心を詠める」をテーマに季節に合わせて詠もうと試みたのですがうまく持続できませんでした。
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by asitanokumo
| 2023-11-25 10:41
| 題詠まとめ