題詠マラソン2003《十五年》
2018年 06月 23日
「題詠マラソン2003」《十五年》
以下、フェイスブックに記したものをまとめて転載する。
2003-参加表明(やゑ)
私が「題詠100」の企画に参加したのは2011から、歌を詠み始めて間もなくのころでした。
この企画は2003年から始まっていたと知って、始まりからどれだけ辿れるかわからないものの、この4月(2018年)からは日々のブログ更新がままならないこともあって、未参加の2003年のお題からぼちぼち詠み進めてみようかと思います。
季節の花や風物(季語)と取り合わせて淡い想いが詠めればと思っています。
(今年始まった「題詠」の企画で、今年分が詠み終えると、過去の題を詠むことができるようになった。)
「十五年」
2003-001:月(やゑ)
言葉なく桜月夜に肩寄せる影絵の中にある十五年
2003-002:輪(やゑ)
水の輪を重ねて鳥は飛ぴたった花に未練はないのだろうか
2003-003:さよなら(やゑ)
さよならを交わして帰る春の宵逢いたい気持ちを奥に澱ませ
「風ひかる」
2003-004:木曜(やゑ)
晩餐のグラスを交はす振袖に桜が散って聖木曜日
2003-005:音(やゑ)
山国の雪解を想い岩陰でひとり聞いてる春の潮の音
2003-006:脱ぐ(やゑ)
「蠢く月」
2003-007:ふと(やゑ)
花陰にうふふと笑う顔見せて早くこっちと手を振っている
2003-008:足りる(やゑ)
2003-009:休み(やゑ)
嘘ついてずる休みして逢いに行き水田に春の雲を眺める
2003-010:浮く(やゑ)
熱の身が共に過ごした時越えて昔ながらの夢に浮く春
「水鳥の跡」
2003-011:イオン(やゑ)
三越のライオン撫でる少女いてビルの谷間は春の夕焼
2003-012:突破(やゑ)
花屑を突破りゆく水鳥の跡に青空ひとすじの道
2003-013:愛(やゑ)
春惜しむ心に愛は届かない八重の桜も散ってしまった
2003-014:段ボール(やゑ)
コロコロとやがて石段五十段ボールはポンポン弾んで落ちる
「初夏の月」
2003-015:葉(やゑ)
機嫌よく目覚めてきみは身を包む若葉の風にいつもの笑顔
2003-016:紅(やゑ)
月光に疲れを知らず濡れている窓辺に咲いたベゴニアの紅
2003-017:雲(やゑ)
2003-018:泣く(やゑ)
泣く人に泣くなと言ってすすりあげ何処まで行こう空木咲く夜
「高原」
2003-019:蒟蒻(やゑ)
蒟蒻のさしみを摘まむ縁の夏ビールの泡は零れて消える
2003-020:害(やゑ)
いくつかの季節過ぎても害った心の疵はふいに疼いて
2003-021:窓(やゑ)
高原に向かう列車の窓いっぱいの初夏にこころを浸す
2003-022:素(やゑ)
ふたりして素足の裏に夏踏んで駆けていきたい丘に来ている
「浅間の煙」
2003-023:詩(やゑ)
一編の詩を口ずさみつつ丘登り今朝も眺める浅間の煙
2003-024:きらきら(やゑ)
落葉松の林に雨がきらきらと横に流れて夏が始まる
2003-025:匿う(やゑ)
新緑が匿う君の影を追い雄蝶雌蝶がもつれて消えた
2003-026:妻(やゑ)
稲妻の光の中に見えた影何を隠すか夏の夜の森
「森の匂い」
2003-027:忘れる(やゑ)
封印し忘れたはずの思い出が時に醸され熟し溢れる
2003-028:三回(やゑ)
おあずけに三回回ってワンという犬に倣った哀しいまなこ
2003-029:森(やゑ)
2003-030:表(やゑ)
花びらを表に裏に牡丹舞い散るにまかせる投げやりの恋
「愚痴」
2003-031:猫(やゑ)
街中の猫撫で声に振り向けば思いの外に老けている人
2003-032:星(やゑ)
ベランダで星降る夜に二人して昔の歌を口ずさむ日よ
2003-033:中ぐらい(やゑ)
結局は老人の愚痴愛だって中ぐらいほどいいものはない
2003-034:誘惑(やゑ)
誘惑に耐えているのに白い花夏空のもと樹に溢れ咲く
「尾灯」
2003-035:駅(やゑ)
駅降りて角を曲がれば懐かしい顔が待ってるわけでなくとも
2003-036:遺伝(やゑ)
母娘遺伝している豪快な笑いが響く初夏の庭
2003-037:とんかつ(やゑ)
じいさんが贔屓していたとんかつのお店の席を確かめている
2003-038:明日(やゑ)
終電のテールライトが消えた後置き去りになる明日のない恋
「青葉」
2003-039:贅肉(やゑ)
かの人の優しさなのか贅肉がプルンプルンと波打っている
石走る滝の音聴く真昼なり青葉をこえた風が輝く
2003-041:場(やゑ)
場違いのようでも墓場におしゃれ服私の時は着て来てください
2003-042:クセ(やゑ)
頰そめる君を想ってほの赤い月に向かってアクセルを踏む
「風の暑さ」
2003-043:鍋(やゑ)
2003-044:殺す(やゑ)
噛み殺す怒りが幾度重なって僕らはボケていくのだろうか
2003-045:がらんどう(やゑ)
子供らが帰った後のがらんどう体育館に潜む陶酔
2003-046:南(やゑ)
石南花(シャクナゲ)にやさしい夏が降りかかる訪う人のない高原の朝
「花南瓜」
2003-047:沿う(やゑ)
川に沿う桜並木に青嵐君の帽子は高くに飛んだ
2003-048:死(やゑ)
坂の上花の下にて死にたいと歌った人の碑に青嵐
2003-049:嫌い(やゑ)
いまさらに嫌いな人に手を振って別れるように別れてみたい
2003-050:南瓜(やゑ)
にぎやかに南瓜の花が咲いていて素顔の君は故郷訛
「老を哀しむ」
2003-051:敵(やゑ)
色と酒溺れることも遠くなり敵(かたき)といえぬ老を哀しむ
2003-052:冷蔵庫(やゑ)
冷蔵庫開いて閉じて夕飯は何にするかと不在の悶え
2003-053:サナトリウム(やゑ)
高原のサナトリウムにいるように朝の空気を二人で吸って
2003-054:麦茶(やゑ)
新しく麦茶を淹れて生き死にの瀬戸際を問う息継ぎの昼
「花野の風」
2003-055:置く(やゑ)
甦る花散る下に佇んて胸に手を置く君の仕草が
2003-056:野(やゑ)
風に立ち花野の花を摘み取ってもう会えないのかと恨んでる
2003-057:蛇(やゑ)
梅雨空に開いて閉じて蛇の目傘別れる時は傾けている
2003-058:たぶん(やゑ)
ごたぶんに洩れずあなたもさよならはごめんで始まりごめんで終わる
「彷徨う町」
2003-059:夢(やゑ)
芳草の夢は醒めずも目も声もかすみかすれて影遠ざかる
2003-060:奪う(やゑ)
奪われた心を元に戻せずにあなたの町を彷徨ってみる
2003-061:祈る(やゑ)
目をあげて祈る姿にひざまずく君を眺めて安らいでいる
2003-062:渡世(やゑ)
これまでに渡世の道の分岐点幾つ間違えここに来たのか
「遠い記憶」
暁の林は深い霧の海女の影がぼんやり浮かぶ
2003-064:ドーナツ(やゑ)
分かち合う餡ドーナツのひとかけら遠い記憶を呼び覚ましてる
2003-065:光(やゑ)
眩しくて遮光カーテン閉じる昼ホテルの窓に遠い山影
2003-066:僕(やゑ)
老いそめて君の僕(しもべ)になる花見この世のほかの思い出にす
「夢のなごり」
2003-067:化粧(やゑ)
花栗の香につつまれる化粧坂終わった人の夢のなごりに
2003-068:似る(やゑ)
2003-069:コイン(やゑ)
この恋を占うようにコイントス表が出たら今日会いに行く
2003-070:玄関(やゑ)
玄関に散らばる靴のさまざまを大中小に並べて帰る
「緑の風」
2003-071:待つ(やゑ)
高原の緑の風に吹かれつつ今年も集うともがらを待つ
2003-072:席(やゑ)
居酒屋の席ほぼ埋まり碁がたきの席だけ空いて西日が暑い
2003-073:資(やゑ)
資本論語る人無く世の中は金がすべてと金持ちの論
2003-074:キャラメル(やゑ)
よちよちがやがてのりのり片足で踊るゆるキャラメルヘンの郷
「風に染まる」
2003-075:痒い(やゑ)
ウズウズと背中の傷が痒いからシャワーを浴びて緑に染まる
2003-076:てかてか(やゑ)
テカテカの脂の顔を拭いつつ緑の風に包まれている
2003-077:落書き(やゑ)
学級のノートに落書きした日々がドラマみたいに思い出される
夏虫を殺める灯しチカチカとまたたき揺れて夜風にそよぐ
「時経りて」
2003-079:眼薬(やゑ)
2003-080:織る(やゑ)
火の山の物語織る幾夜さの窓に凭(もた)れて浸る追憶
2003-081:ノック(やゑ)
てのひらのスパイカメラはミノックス愛の記憶をそっと残した
2003-082:ほろぶ(やゑ)
美し国ほろぶ姿を見る日々が幾年過ぎて我は老いたり
「風の言葉」
2003-083:予言(やゑ)
電話口逢えるその日を予言する風の言葉を耳に重ねる
2003-084:円(やゑ)
次々と円舞の相手替えていく君を見ていた海辺のホテル
2003-085:銀杏(やゑ)
あたたかな銀杏落葉に身をしずめふりゆく時を惜しむ夕暮
2003-086:とらんぽりん(やゑ)
幼子をとらんぽりんが跳ね上げてまばゆく揺れるスカートの夢
「歓び」
2003-087:朝(やゑ)
別れても朝な夕なに願ってた歓び合えるその日はあると
2003-088:象(やゑ)
象潟の雨に打たれて咲く合歓に願いを込めてすする岩牡蠣
2003-089:開く(やゑ)
再会の君の心はいつまでも開くことないパンドラの箱
2003-090:ぶつかる(やゑ)
歓びのぶつかる音がくりかえすいとなみしぶき透き通る夜
「刻を待つ」
2003-091:煙(やゑ)
峰を這う浅間の煙また匂うつま恋う村に一人過ごす夜
2003-092:人形(やゑ)
十六夜の人形めいた縺れ髪さかしまの身にいなずまの影
2003-093:恋(やゑ)
戯れに恋の名残りの舞扇開いて閉じて過ぎる刻待つ
2003-094:時(やゑ)
ふけゆけばさだめの時を待ちながら熟れた無花果ワインで煮込む
2003-095:満ちる(やゑ)
咲き満ちる桜の下の思い出は出逢った刻の笑顔の匂い
2003-096:石鹸(やゑ)
思い出は弾けて消える石鹸玉遠くの君へ届けたいのに
2003-097:支(やゑ)
来年の干支を数える時満ちて逢える日のくる春を待つ夜
お互いに爛れた傷を舐めあってそっぽを向いて過ごす夜が過ぎ
「やさしい想い」
2003-099:かさかさ(やゑ)
短歌にもヘイト記され鬱な朝そのかさかさの心哀しむ
題詠マラソンの2003年度分を詠み終えた。
ブログ再開に合わせて課題として「やゑ」の名で歌い始めたのが五月初めのことだった。
どうにか口語短歌に慣れてきた感がある。