題詠blog2012の全百首・「寄花恋」
2012年 02月 11日
「題詠blog」への参加は二年目になりました。
山家集に「寄花恋」の題で
花をみる心はよそにへだたりて身につきたるは君がおもかげ(西行)
という歌があります。
この歌の気分で今年は「若い女のひととせの恋の顛末」を「寄花恋」として花木を題に詠んでみました。連作風にして「歌物語」めいたかかどうか、その匂いくらい出せたかと思っています。
昨年は完走した後で物語風に読むために歌の順を入れ替える作業をしました。実はそれが結構面倒でしたので、今回は出来るだけストーリーの順になるよう詠んだつもりですが、花の盛りからするとその順はおかしいと思われるところも出来てしまいました。春→夏→秋→冬→再び春に向かうという設定でした。
出て来る花木も四季のうちにはなんとか入るかとその辺は大目に見てご笑読いただければと思います。
作っては見ましたが、「題詠課題と花木とストーリー」という枠を設定してそれを組み合わせるとなると歌の出来としては無理が生じて破綻しているものが多くなってしまいました。
「寄花恋」
001:今
我が庭に汝(な)が植えたりし形見なり今を春べと花の香れり
002:隣
偲ぶるは出会ひし日なり咲き競ふ黄色き梅の隣に立ちぬ
003:散
霜柱光溶け行く庭陰に山茶花の紅散り敷きてあり
004:果
月おぼろ旅果つる日や福寿草咲き始むかに蕾膨らむ
005:点
椿咲く帯締めて点す茶の濃きは忍びかねての色やいでける
006:時代
春深み時代蒔絵の梅文箱初めての文取り出だし見る
007:驚
一面に金盞花(きんせんか)咲く広畑に賑はふ声の驚ろしきかな
008:深
うららかの春の陽浴びて深見草咲くを待ちつつ君を待ちつつ
009:程
泣くほどに歎きのふかく杉の花程々ししくもなりにけるかな
010:カード
誕生のカードに添ふる桃の花紅(くれなゐ)匂ふ乙女なれとや
011:揃
咲き揺るる鈴蘭水仙刈り取られ汝(な)が手に抱かれ揃へられたり
012:眉
山巓に眉月出でておぼろなり満作の花ほころびけぶる
013:逆
芽吹きたる柳の風を逆髪と見ゆるは吾の心なるらし
014:偉
偉丈夫と比べられたる樊噲草(はんかいさう)谷間に咲きて誰守るらむ
015:図書
汝(な)と吾の相関図書き迷ひつつ消し去る夜に沈丁花の香
016:力
山を抜く力のあるや雛罌粟(ひなげし)の想ひ深かり吾は咲きなむ
017:従
木蓮を下に従え咲く辛夷(こぶし)空の青きに君来るを待つ
018:希
希(ねが)ひつつ辛夷のもとに佇めば君来る音の遥かに聞こゆ
019:そっくり
花束をそっくり其の儘胸に抱き笑(ゑ)まひは満ちぬ君が心に
020:劇
突然の劇しきハグに身悶えて花弁(はなびら)散るも嬉しとぞ見き
021:示
散る花は君の示せる情(こころ)かと辛夷(こぶし)の空を仰ぎ見てをり
022:突然
突然に黙りこくりし吾が面(おも)を包む優しき手ぞ恋の花
023:必
必ずや君に応へむ吾が恋ぞ白木蓮に密かに咲ける
024:玩
君が手は馬酔木(あせび)の花を手折るかに優しく愛でて髪弄ぶ
025:触
牡丹花のひとひら散りぬ手にとりて触れなば吾もはや散りなまし
026:シャワー
惑(まど)ひつもシャワールームの音消えぬ桜並木の見下ろせる夜
027:損
桜舞ふ艶めく夜やいやいやと機嫌損ねしそぶりみせつつ
028:脂
脂下がり煙草咥える後ろ影窓の外(と)に舞ふ桜しきりに
029:座
宴の座の跳ねて酔漢散り散りに去りてなほ散る夜桜の苑
030:敗
敗れ傘一つ残りて桜散る夜明けの苑の倦みて物憂し
031:大人
別る朝大人気なきも袖引きて当てなきままに歩む花陰
032:詰
覚めやらず詰まらぬ嘘を繰り返し別れを伸ばす花陰の夢
033:滝
偲ぶるは夜の三春の滝桜今年の春は如何に咲くらむ
034:聞
聞き蕩(と)れる鶯去りて咲き満つる桜の苑に君見送りぬ
035:むしろ
別れ来て衣かたしくさむしろに形見の桜ひとひら溢(こぼ)る
036:右
ほんのりと歌右衛門注(さ)す頬紅の艶の偲ばる鬱金(うこん)咲きたり
037:牙
見上ぐれば老いて槎牙(さが)たる桐の木に淡き紫降るかの如し
038:的
海棠に吾を喩えし目的を君言はぬまま笑ひて帰る
039:蹴
花時計巫山戯(ふざけ)て暮るる春の夜に足蹴(あしげ)にしつも君のいとほし
040:勉強
紫蘭咲く叢(くさむら)深しどの花を摘むべきものか勤勉強ひて
041:喫
陽高き夏満喫の海岸に手をとる君と露草見つく
042:稲
紫陽花の色変わりゆき吾が恋の行方いづこと稲荷に詣づ
043:輝
陽を浴びて梔子(くちなし)の花咲き初(そ)むる白き輝き吾に注ぎぬ
044:ドライ
恋の色あせぬを願ひ千日紅ドライフラワーにして君に送れり
045:罰
逢えぬ日は天罰ならむと諦むか枯らしたる百合いかにせましや
046:犀
匂ひせぬ金木犀の木の下に佇み思ふ咲く日のあるを
047:ふるさと
言ひ訳を答ふるさとき君の語を空しく聞けり睡蓮咲くも
048:謎
謎めきし言葉残して去り行けば戸惑ひて見る姫百合咲くを
049:敷
振る舞ひを敷女(しきめ)めくとも見ゆるかに捩花(ねぢばな)ひとつ置きて帰り来
050:活
懇ろに夏の花活く君来(きた)る願ひかなひてはや月も出づ
051:囲
囲はるる身にもならむか梔子(くちなし)の腐(くた)して散りて夏の夜の果つ
052:世話
里方に向日葵(ひまわり)咲くも世話好きの言葉うるさく逃げて帰りぬ
053:渋
お見合ひを疎み渋るをいぶかれる母の瞳に百日紅(さるすべり)揺る
054:武
武蔵野に蓮華升麻(れんげしょうま)ぞ開きける木陰の風のそよと涼しく
055:きっと
きっと来るきっと来るとて待ちゐるに松虫草の花凋みたり
056:晩
久々の訪ひありし夏の晩(くれ)乱れて咲くや芙蓉に似せて
057:紐
糠雨に待宵草の濡れて咲く吾(あ)を偲ぶらむ下紐解けぬ
058:涙
更に又激しくなるや涙雨芭蕉打つ音の夜に響けり
059:貝
ざんざ降り貝塚伊吹濡れに濡る拾ひに行かむか恋忘れ貝
060:プレゼント
下女のコスプレゼントルマンに仕へる技と蝶翻り薔薇捧ぐ
061:企
日のうちに色変へてゆく酔芙蓉企み知りて君来たらずや
062:軸
無花果(いちじく)の割れて甘かり君が語を回転軸に吾(わ)の生めぐる
063:久しぶり
逢ふことの叶わず久しぶり返す想ひぞ深き深草の葛(くず)
064:志
堅き実のはや色づきて七竈(ななかまど)我が身も堅き志得む
065:酢
酢漿草(かたばみ)の触るれば爆(は)ずる実の如く君が言葉に涙の散りぬ
066:息
息留めて君が言葉を聞きをれば吾は荒地の盗人萩(ぬすびとはぎ)ぞ
067:鎖
汝(な)と吾と鎖連歌の如くして現の証拠に念断ち難し
068:巨
見上ぐるは榎(えのき)の巨木一里塚千鳥は来れど君ぞ来まさぬ
069:カレー
サッカレー愛しき人を失ふは次善と言へり一位の実は毒
070:芸
身を助く芸もあらざり烏羽玉の夜の更けゆけど夢だにも見ず
071:籠
籠鳥の雲を恋ふかに眺むかな槻群(つきむら)の色日々変わり行く
072:狭
狭衣の帯解き放つ夢を見つ月にあかあか曼珠沙華満つ
073:庫
萩の寺庫裏の衣裄に投げ掛けし蝶の帯あり人影の無く
074:無精
倦むほどに無精になれる君なれや寂しき日陰杜鵑(ほととぎす)咲く
075:溶
強き香の溶け合ふ風に闇探る黙(もだ)せし君よこの恋いづこ
076:桃
必ずや桃夭(たうえう)の歌うたはしむと父に誓ふも桃既に枯る
077:転
寝転びて君来ぬ昼のけだるきに薄(すすき)揺るるを眺め倦み果つ
078:査
ひとり来し秋の作品審査会紫苑群れ咲き君忘られず
079:帯
復見ゆる帯解く夢に吾亦紅(われもかう)君の姿のしるくもあるか
080:たわむれ
たわわなる柿の実を捥(も)ぐたわむれの愛憎の果て君も狂へよ
081:秋
秋桜(コスモス)の乙女のまこと咲き満つも摘む人無きを嘆き侘びけり
082:苔
苔に散る紅葉うつくし散る恋のなどて悲しく秋の更け行く
083:邪
邪(よこしま)の恋の終はりて赤き実の男ようぞめ指で弾きぬ
084:西洋
秋の暮れ西洋桜の実を摘まむ指懐かしや涙流れし
085:甲
手の甲に涙拭ひし後を見つ極楽鳥花飛ぶかに見えて
086:片
夢にのみ叶ふ片恋忍ぶれど溢る想ひぞ黄菊に添ゆる
087:チャンス
今一度ラストチャンスのあるやなし燃ゆる鶏頭更に燃えたれ
088:訂
秋深み色変えていく小紫心の色を訂(ただ)すもむなし
089:喪
この秋の喪(なく)せる恋に酔芙蓉乱れて染まる色のいとほし
090:舌
棘のごと舌に残れる言の葉を吾吐きたれば柊(ひいらぎ)痛し
091:締
鎮めるも締め木に絞ぼる想ひかな樒(しきみ)の割れて実の溢(こぼ)れけり
092:童
童(やはら)ぎてむづかる吾をてなづけてけなげに咲ける石蕗(つわぶき)の花
093:条件
山吹を想ひ見よかし実なきとは酷き言ひ条件(くだん)の愛を
094:担
愛しさを担(かた)ぐる背(せな)に零れくる割れし真弓の種ぞ赤かる
095:樹
散り果てし公孫樹(いちやう)になおも風止まずはや冬の空むなしく広し
096:拭
散り敷ける紅葉踏みつつ行く道に涙拭へり一人しあれば
097:尾
山の尾に美男といはる実葛(さねかづら)集まり生(な)れし実ぞ熟れこぼる
098:激
頬を打つ激しき風に寒椿色濃く咲きぬ吾も咲かまし
099:趣
凍て風に向かひて揺るる水仙の趣き受けて髪梳る
100:先
明かり先見つつ綻ぶ花に寄せ失ひし恋和歌(うた)に詠へり
〔これにいくらかのプロットをつけてプログ「白睡蓮・清しくも艶めき咲ける睡蓮の悩める如く涙抱けり」に「歌物語「花に寄せる恋」百首」としてアップしています。〕
山家集に「寄花恋」の題で
花をみる心はよそにへだたりて身につきたるは君がおもかげ(西行)
という歌があります。
この歌の気分で今年は「若い女のひととせの恋の顛末」を「寄花恋」として花木を題に詠んでみました。連作風にして「歌物語」めいたかかどうか、その匂いくらい出せたかと思っています。
昨年は完走した後で物語風に読むために歌の順を入れ替える作業をしました。実はそれが結構面倒でしたので、今回は出来るだけストーリーの順になるよう詠んだつもりですが、花の盛りからするとその順はおかしいと思われるところも出来てしまいました。春→夏→秋→冬→再び春に向かうという設定でした。
出て来る花木も四季のうちにはなんとか入るかとその辺は大目に見てご笑読いただければと思います。
作っては見ましたが、「題詠課題と花木とストーリー」という枠を設定してそれを組み合わせるとなると歌の出来としては無理が生じて破綻しているものが多くなってしまいました。
「寄花恋」
001:今
我が庭に汝(な)が植えたりし形見なり今を春べと花の香れり
002:隣
偲ぶるは出会ひし日なり咲き競ふ黄色き梅の隣に立ちぬ
003:散
霜柱光溶け行く庭陰に山茶花の紅散り敷きてあり
004:果
月おぼろ旅果つる日や福寿草咲き始むかに蕾膨らむ
005:点
椿咲く帯締めて点す茶の濃きは忍びかねての色やいでける
006:時代
春深み時代蒔絵の梅文箱初めての文取り出だし見る
007:驚
一面に金盞花(きんせんか)咲く広畑に賑はふ声の驚ろしきかな
008:深
うららかの春の陽浴びて深見草咲くを待ちつつ君を待ちつつ
009:程
泣くほどに歎きのふかく杉の花程々ししくもなりにけるかな
010:カード
誕生のカードに添ふる桃の花紅(くれなゐ)匂ふ乙女なれとや
011:揃
咲き揺るる鈴蘭水仙刈り取られ汝(な)が手に抱かれ揃へられたり
012:眉
山巓に眉月出でておぼろなり満作の花ほころびけぶる
013:逆
芽吹きたる柳の風を逆髪と見ゆるは吾の心なるらし
014:偉
偉丈夫と比べられたる樊噲草(はんかいさう)谷間に咲きて誰守るらむ
015:図書
汝(な)と吾の相関図書き迷ひつつ消し去る夜に沈丁花の香
016:力
山を抜く力のあるや雛罌粟(ひなげし)の想ひ深かり吾は咲きなむ
017:従
木蓮を下に従え咲く辛夷(こぶし)空の青きに君来るを待つ
018:希
希(ねが)ひつつ辛夷のもとに佇めば君来る音の遥かに聞こゆ
019:そっくり
花束をそっくり其の儘胸に抱き笑(ゑ)まひは満ちぬ君が心に
020:劇
突然の劇しきハグに身悶えて花弁(はなびら)散るも嬉しとぞ見き
021:示
散る花は君の示せる情(こころ)かと辛夷(こぶし)の空を仰ぎ見てをり
022:突然
突然に黙りこくりし吾が面(おも)を包む優しき手ぞ恋の花
023:必
必ずや君に応へむ吾が恋ぞ白木蓮に密かに咲ける
024:玩
君が手は馬酔木(あせび)の花を手折るかに優しく愛でて髪弄ぶ
025:触
牡丹花のひとひら散りぬ手にとりて触れなば吾もはや散りなまし
026:シャワー
惑(まど)ひつもシャワールームの音消えぬ桜並木の見下ろせる夜
027:損
桜舞ふ艶めく夜やいやいやと機嫌損ねしそぶりみせつつ
028:脂
脂下がり煙草咥える後ろ影窓の外(と)に舞ふ桜しきりに
029:座
宴の座の跳ねて酔漢散り散りに去りてなほ散る夜桜の苑
030:敗
敗れ傘一つ残りて桜散る夜明けの苑の倦みて物憂し
031:大人
別る朝大人気なきも袖引きて当てなきままに歩む花陰
032:詰
覚めやらず詰まらぬ嘘を繰り返し別れを伸ばす花陰の夢
033:滝
偲ぶるは夜の三春の滝桜今年の春は如何に咲くらむ
034:聞
聞き蕩(と)れる鶯去りて咲き満つる桜の苑に君見送りぬ
035:むしろ
別れ来て衣かたしくさむしろに形見の桜ひとひら溢(こぼ)る
036:右
ほんのりと歌右衛門注(さ)す頬紅の艶の偲ばる鬱金(うこん)咲きたり
037:牙
見上ぐれば老いて槎牙(さが)たる桐の木に淡き紫降るかの如し
038:的
海棠に吾を喩えし目的を君言はぬまま笑ひて帰る
039:蹴
花時計巫山戯(ふざけ)て暮るる春の夜に足蹴(あしげ)にしつも君のいとほし
040:勉強
紫蘭咲く叢(くさむら)深しどの花を摘むべきものか勤勉強ひて
041:喫
陽高き夏満喫の海岸に手をとる君と露草見つく
042:稲
紫陽花の色変わりゆき吾が恋の行方いづこと稲荷に詣づ
043:輝
陽を浴びて梔子(くちなし)の花咲き初(そ)むる白き輝き吾に注ぎぬ
044:ドライ
恋の色あせぬを願ひ千日紅ドライフラワーにして君に送れり
045:罰
逢えぬ日は天罰ならむと諦むか枯らしたる百合いかにせましや
046:犀
匂ひせぬ金木犀の木の下に佇み思ふ咲く日のあるを
047:ふるさと
言ひ訳を答ふるさとき君の語を空しく聞けり睡蓮咲くも
048:謎
謎めきし言葉残して去り行けば戸惑ひて見る姫百合咲くを
049:敷
振る舞ひを敷女(しきめ)めくとも見ゆるかに捩花(ねぢばな)ひとつ置きて帰り来
050:活
懇ろに夏の花活く君来(きた)る願ひかなひてはや月も出づ
051:囲
囲はるる身にもならむか梔子(くちなし)の腐(くた)して散りて夏の夜の果つ
052:世話
里方に向日葵(ひまわり)咲くも世話好きの言葉うるさく逃げて帰りぬ
053:渋
お見合ひを疎み渋るをいぶかれる母の瞳に百日紅(さるすべり)揺る
054:武
武蔵野に蓮華升麻(れんげしょうま)ぞ開きける木陰の風のそよと涼しく
055:きっと
きっと来るきっと来るとて待ちゐるに松虫草の花凋みたり
056:晩
久々の訪ひありし夏の晩(くれ)乱れて咲くや芙蓉に似せて
057:紐
糠雨に待宵草の濡れて咲く吾(あ)を偲ぶらむ下紐解けぬ
058:涙
更に又激しくなるや涙雨芭蕉打つ音の夜に響けり
059:貝
ざんざ降り貝塚伊吹濡れに濡る拾ひに行かむか恋忘れ貝
060:プレゼント
下女のコスプレゼントルマンに仕へる技と蝶翻り薔薇捧ぐ
061:企
日のうちに色変へてゆく酔芙蓉企み知りて君来たらずや
062:軸
無花果(いちじく)の割れて甘かり君が語を回転軸に吾(わ)の生めぐる
063:久しぶり
逢ふことの叶わず久しぶり返す想ひぞ深き深草の葛(くず)
064:志
堅き実のはや色づきて七竈(ななかまど)我が身も堅き志得む
065:酢
酢漿草(かたばみ)の触るれば爆(は)ずる実の如く君が言葉に涙の散りぬ
066:息
息留めて君が言葉を聞きをれば吾は荒地の盗人萩(ぬすびとはぎ)ぞ
067:鎖
汝(な)と吾と鎖連歌の如くして現の証拠に念断ち難し
068:巨
見上ぐるは榎(えのき)の巨木一里塚千鳥は来れど君ぞ来まさぬ
069:カレー
サッカレー愛しき人を失ふは次善と言へり一位の実は毒
070:芸
身を助く芸もあらざり烏羽玉の夜の更けゆけど夢だにも見ず
071:籠
籠鳥の雲を恋ふかに眺むかな槻群(つきむら)の色日々変わり行く
072:狭
狭衣の帯解き放つ夢を見つ月にあかあか曼珠沙華満つ
073:庫
萩の寺庫裏の衣裄に投げ掛けし蝶の帯あり人影の無く
074:無精
倦むほどに無精になれる君なれや寂しき日陰杜鵑(ほととぎす)咲く
075:溶
強き香の溶け合ふ風に闇探る黙(もだ)せし君よこの恋いづこ
076:桃
必ずや桃夭(たうえう)の歌うたはしむと父に誓ふも桃既に枯る
077:転
寝転びて君来ぬ昼のけだるきに薄(すすき)揺るるを眺め倦み果つ
078:査
ひとり来し秋の作品審査会紫苑群れ咲き君忘られず
079:帯
復見ゆる帯解く夢に吾亦紅(われもかう)君の姿のしるくもあるか
080:たわむれ
たわわなる柿の実を捥(も)ぐたわむれの愛憎の果て君も狂へよ
081:秋
秋桜(コスモス)の乙女のまこと咲き満つも摘む人無きを嘆き侘びけり
082:苔
苔に散る紅葉うつくし散る恋のなどて悲しく秋の更け行く
083:邪
邪(よこしま)の恋の終はりて赤き実の男ようぞめ指で弾きぬ
084:西洋
秋の暮れ西洋桜の実を摘まむ指懐かしや涙流れし
085:甲
手の甲に涙拭ひし後を見つ極楽鳥花飛ぶかに見えて
086:片
夢にのみ叶ふ片恋忍ぶれど溢る想ひぞ黄菊に添ゆる
087:チャンス
今一度ラストチャンスのあるやなし燃ゆる鶏頭更に燃えたれ
088:訂
秋深み色変えていく小紫心の色を訂(ただ)すもむなし
089:喪
この秋の喪(なく)せる恋に酔芙蓉乱れて染まる色のいとほし
090:舌
棘のごと舌に残れる言の葉を吾吐きたれば柊(ひいらぎ)痛し
091:締
鎮めるも締め木に絞ぼる想ひかな樒(しきみ)の割れて実の溢(こぼ)れけり
092:童
童(やはら)ぎてむづかる吾をてなづけてけなげに咲ける石蕗(つわぶき)の花
093:条件
山吹を想ひ見よかし実なきとは酷き言ひ条件(くだん)の愛を
094:担
愛しさを担(かた)ぐる背(せな)に零れくる割れし真弓の種ぞ赤かる
095:樹
散り果てし公孫樹(いちやう)になおも風止まずはや冬の空むなしく広し
096:拭
散り敷ける紅葉踏みつつ行く道に涙拭へり一人しあれば
097:尾
山の尾に美男といはる実葛(さねかづら)集まり生(な)れし実ぞ熟れこぼる
098:激
頬を打つ激しき風に寒椿色濃く咲きぬ吾も咲かまし
099:趣
凍て風に向かひて揺るる水仙の趣き受けて髪梳る
100:先
明かり先見つつ綻ぶ花に寄せ失ひし恋和歌(うた)に詠へり
〔これにいくらかのプロットをつけてプログ「白睡蓮・清しくも艶めき咲ける睡蓮の悩める如く涙抱けり」に「歌物語「花に寄せる恋」百首」としてアップしています。〕
by asitanokumo
| 2012-02-11 12:03
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